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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 昨日の通りすがりが逮捕されたみたい――一時限目の授業中、隣の席の亜佐美から囁かれた言葉に、詩織は思わず振り向いた。条件反射的に「逮捕?」と小さく声が漏れる。
 その声が耳に入ったのだろうか、亜佐美を挟んで向こう側の美帆も振り向き、詩織と目が合った。詩織は慌てて視線を黒板に戻す。美帆は生真面目な委員長。これ迄にも私語を注意された事がある。
 亜佐美もそれと察したか、ノートを取る振りをして、メモを書いて寄越した。余程聞かせたくて堪らないらしい。


 昨日警察にきかれたじゃない! ほら、このところ通り魔って言うか、夜道で黒フードの奴が女子を狙ってカッターで切りつけるなんて事件が続いてるから、怪しい人を見なかったかって。
 それであたし達帰りぎわに会った人の話したでしょ?
 ほら、正門で、通りすがりなんだけどこの高校の部活を見学させてもらっていいかな、なんて話しかけてきた男!
 見た目同い年ぐらいの割とかっこいい人だったけど、なんか怪しいから「あたし達より先生にきいてみた方がいいですよ~」って、二人して逃げたじゃない。
 あの男がね、タイホされたらしいよ。やっぱり怪しいと思ったのよね~。
 って、もしかしたらあたし達もヤバかったんじゃない!?∑(○o○)


 興奮しているのがやたらデコレーションされた文字に表れている。
 詩織にとっても昨日会った男が通り魔で、然も、もしかしたら自分達の証言を元に逮捕されたかも知れないというニュースは心臓の鼓動を早めるに充分なものだった。
 しかし詩織は冷静にメモを返した。一言だけ、書き足して。
〈あの人なら今、正門の所につっ立てるわよ〉と。
「嘘ぉ!?」亜佐美は――当然の如く、教師に怒鳴られた。

 
「どういう事よっ?」教師と美帆からの睨み、それと周囲のくすくす笑いを耐え忍び、授業から解放された亜佐美は早速詩織の席に飛んで来た。それと言うのも詩織の席が窓際で、そこからなら正門を含む校庭が一望出来たからでもある。
 どういう事もこういう事も……と詩織は窓を指差す。ここは二階、距離的にはそれ程正門から離れてはいない。
 確かに、そこには昨日と同一人物と思しき男が立っていた。
「何でぇ!?」
「こっちが訊きたいわよ。大体、逮捕なんてどこから聞いてきたの?」
「夜中にネット掲示板見てたら、通り魔が逮捕されたって書き込みがあって、あの男の顔が晒されてたんだもん」
「……通り魔も怖いけど、その掲示板も怖いわね」
 詩織は朝のニュース番組も見る間も無く登校したので、公的にはどの程度の報道がなされていたのかは不明だが、少なくとも昨夜のニュースで見た覚えも無いものが、もう顔写真迄出ているとは……。
「でもそこに居るっていう事は、間違いだったか、精々事情を聴かれたかしただけだったんじゃないの?」
「そうなのかなぁ」渋々、納得する亜佐美。大ニュースを持ち込んだ心算だったのが、すっかり意気消沈している。が、その顔がふと、暗さを増した。「でも、さ……、彼、何でいつ迄もあそこに居る訳?」
 詩織は窓を振り返った。未だ、同じ場所に男は立っていた。
「見学……には見えないわね。部活は未だ先だし、先生か誰かに許可が出るか訊いてみようって感じでもないし」
「もしかして……あたし達の所為で警察に引っ張られたって、ばれてるんじゃない? だから怒って……」亜佐美は姿を隠す様に窓から離れる。
「真逆……」詩織は内心どきりとしながらも苦笑する。それは考えない事でもなかった。しかし、元より自分達の証言の所為だとはっきりした訳でもないし、と否定したがっていたのだ。
「だって、間違いだったかも知れないけど――ううん、それなら尚更――顔、晒されちゃったんだよ? 通り魔だなんて……。でも投稿した相手は判らないし、怒りのやり場が無くて、そう言えば昨日の女子高生がチクったんじゃないかって思ったのかも……!」
「亜佐美、落ち着いてよ」
「だって、昨日は本当に通りすがりだったかも知れないけど、今日はあたし達を狙ってるのかも知れないじゃない! 落ち着けなんて簡単に言わないでよ!」
「先生方に相談したらどう?」そう提案したのは、詩織ではなかった。もう次の授業の準備を進めながらも話を耳にしていたらしい、美帆の声だった。「本当に見学だとしても先生か誰かに付き添って頂くようにお願いすれば、安心でしょ? そうでなければこそこそ逃げて行くでしょうし」
 名案だ、流石委員長だ――亜佐美は調子よく美帆を持ち上げた。本当に子供のようにころころ表情の変わる娘だった。
 しかし、彼女等が教師と話を付けた頃には、男の姿は正門から消え去っていた。

「そろそろ……帰る?」亜佐美がいつに無くのろのろと帰り支度をしながら訊いた。
 既に放課後だが、あれ以来男は姿を現していない。どこかへ行ってしまったのならいいのだが、姿の見えない事が逆に彼女等を不安にさせていた。
「帰るしかないでしょう?」もう一度だけ、窓から外を見遣って、詩織は頷いた。
 結局教師達に証明も出来ず、また男に本当に害意があったのかも判らず、不安な儘、彼女達は校舎を出た。
「何やってるのよ?」詩織は横を歩く亜佐美を見遣って首を傾げた。亜佐美は先程から頻りと、ショートカットの髪をいじっている。
「あ、いや……変装。女の子は髪型で印象変わるって言うじゃん」
 思わず詩織は吹き出した。確かにそれはあるけれど、ショートカットの分け目を変えた位でどの程度の効果が見込めるのかは疑問だ。そして何よりそれを「変装」と言ってしまう亜佐美に、状況も忘れて心が軽くなるのを感じた。
「あ、ひっどいなー。笑う事ないでしょ」そうむくれる亜佐美本人にも、それは伝染した様だった。口元が、にやけている。
 それでも、二人揃って正門を潜る前に周囲を見回してしまう。
 と、正門を出て僅かばかり行った所に居たのは美帆と、件の男だった。
「い、委員長!」二人は揃って声を上げた。「その人が例の……!」
 危ない、と言っていいものかどうか逡巡していると、美帆が振り返って困った様な笑みを浮かべた。
「例の人よね? 今見掛けたから事情聴取してました」彼女には珍しく、おどける様にそう笑う。「彼、逮捕された事なんて無いそうよ?」
「え……?」亜佐美が呆ける。「じゃ、夕べ見たネット掲示板は……?」
「質の悪い悪戯でしょうね」美帆は眉を顰めた。「それで、彼も人伝にその件を聞いて……その写真がどうも昨日この辺で盗み撮りされたものらしいって、背景とかから判ったから、もしかしたらって来たらしいわ」
「あ、あたし達じゃないわよ?」先手を取る様に、亜佐美が言った。
「解ってます」と言って苦笑したのは件の男だった。「昨日は何か警戒させたみたいで……慌てて行ってしまった君等に写真が撮れたとは思えないし。しかし、やっぱり張り込んでも無駄だったみたいだなぁ」
「何だぁ……」亜佐美は力が抜けた様に、膝に手を突いた。あはは……と笑いがその口から漏れる。「あたし達、ばっかみたい!」
 変装迄しようとした亜佐美と一緒にしないで欲しい、と詩織は思ったが、やはり同じ様に笑いが込み上げるのを止められずにいた。

 結局通りすがりの男は目的を切り替え、昨日言った通りの部活見学を申し出に、美帆に付き添われて校舎に入って行った。
 笑い疲れた亜佐美とも別れ、詩織はすっかり陽の落ちた帰路を行く。
 それにしても――詩織はふと、小首を傾げて考えた――美帆はいつ、彼の顔を見たのだろう? 休み時間に話をしていた時には、彼女は自分の席から離れてはいなかった。あの位置からでは正門は見えない筈だが? どうして今さっき見掛けた男が例の人だと判ったのだろう?
「ま、いいか」くすり、と笑って詩織は足取り軽く、歩を進めた。そしてナップザックの中の物に手を伸ばし掛け、手を止める。「こっちもいいか。今日はそれなりにスリリングだったし」
 スリルは偶にあるから愉しいのだ、と詩織はカッターがポケットに入ったフード付きの黒いコートを出すのは止めにした。
 今夜は――。

                      ―了―

 あんまり怖くもミステリーにもならなかったかも★
 夜霧、きのうの巽の通りすがり……って何だ(--;)




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予想外♪
珍しく、明るいお話って思ってたら
・・・あらあら(^^)
明るい狂気、一番手に負えないかも(^_^;)
moon 2007/10/30(Tue)19:42:27 編集
Re:予想外♪
捻くり回している内についつい……(^^;)
亜佐美ちゃんが妙に書いてて楽しかったです♪
巽(たつみ)【2007/10/30 19:57】
むー
赤〇先生風なら、犯人の男と主人公が手を組んで犯人探しに行くんだろーけどね。これもまた良し(笑)
私、掲示板の犯人と、通り魔を反対にして想像しちゃいました。やっぱり、当たらなかったー

夜霧になら、通りすがりに逮捕されても良いかもー
冬猫 2007/10/30(Tue)22:56:13 編集
Re:むー
夜霧、「怪しい美帆ー!」って言ってました。推理もする様になったのでしょうか?(笑)
逮捕……姐さん、何しでかしたんですかー!?
巽(たつみ)【2007/10/30 23:32】
今日の
夜霧、
「女子 怪しすぎない?」
このこ、凄い勢いで鋭いこと言う。

これ、捻りが効いていいね。
女の子たちの会話のことろ、巽さん楽しそう。
んで、お冬姐さんは、何やったの?
ぷん URL 2007/10/31(Wed)09:14:41 編集
有難うございます♪
でも、夜霧も怪しいですよ?
「黒フードって苦しいー!」って、被った事あるんかい!?
実は真犯人は……ナイナイ(--;)
巽(たつみ)【2007/10/31 10:56】
無題
あ、夜霧鋭いじゃん……。
あたってるじゃん……。
見習猫シンΨ URL 2007/10/31(Wed)11:40:54 編集
Re:無題
夜霧、侮り難し!
くうっ、飼い猫に見抜かれるとは……!
でも「怪しい大人ー!」とかも言ってたな。まぐれ?(笑)
巽(たつみ)【2007/10/31 12:39】
俺は木天蓼の売人。大塚で売ってたのさ~(笑)
「通り魔って言うか、夜道で黒フードの猫が女子を狙って鋭い爪で切りつけるなんて事件が続いてるから、怪しい猫を見なかったか」って、警察猫に事情聴取されたから逃げたのさー

夜霧!?まさかお前…
ギャアァァ~~~!!


巽さん
失礼しましたm(__)m
冬猫 2007/10/31(Wed)11:44:16 編集
Re:俺は木天蓼の売人。大塚で売ってたのさ~(笑)
マタタビの密売容疑でしたか……

黒フードの猫って……(笑)
でも今日はハロウィンですからね~。居ないとも限らない?

巽(たつみ)【2007/10/31 12:45】
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