〈2007年9月16日開設〉
これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。
尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。
絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
Admin
Link
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
一年って早いわね――馴染みの図書館の子供向けのコーナーに施された飾り付けを見て、私は思わず溜め息をついた。今年もまた気分が浮き立ちながらも忙しい、そんなシーズンに突入するのだ。
深いグリーンのツリーには様々なオーナメントが吊り下げられ、白い綿の雪に彩られている。
勿論、書架にもサンタクロースが勢揃いだ。
可愛らしい絵柄や、コミカルな絵柄、そんな子供受けするだろう絵本の中に一冊だけ、モノクロのスケッチ画の様な表紙の絵本がぽつり、周りから浮いていた。
と――。
「すばるお姉ちゃん」くいっと髪を引かれる感触。
私は斜め下を見下ろした。そこには元々この図書館に住み着いていた、鹿嶋良介君――享年七歳。
何故か私にだけ見える、この町立鹿嶋記念図書館の創立者の息子さんの幽霊。そして最近はもっぱら私のマンションに出没中でもある。
「どうかしたの?」そっと、尋ねる。私にしか見えてないんだもの。普通に訊いたら私がおかしい人みたいじゃない。
「あの本、借りてくれない?」そう言って指差したのは、先程のモノクロ絵本。
いいわよ、と気安く答え掛けたものの、その表情が気になって、私は僅かに躊躇した。
良介君が読んで欲しい本を指定する事は珍しくない。けど、そんな時、この本好きの幽霊はさも楽しそうに、これから出会う物語に目を輝かせているのだ。
なのに件の絵本を見る良介君の表情に、そんな期待感は微塵も無かったからだ。
「あの本――何なの?」私はそう、問い返していた。
取り敢えず、その本を手に取り、私達は窓際の書見台へと移動した。館内には暖房が適度に入っているものの、窓から染み入る日差しが一際暖かい。
私は本をぱらぱらと捲ってみた。全体的に、薄いクリーム色の地にセピア色の印刷がなされた、絵本としては地味なものだった。そして古い。作者名も聞いた事さえなく、奥付けを見れば出版されたのはかれこれ四十年は前のものだった。
流石、元は個人所有から町に寄贈された経緯を持つ図書館。こんな古い本が、然も状態もよく残っているなんて。
私はそう感心すると同時に、ある可能性に思い至った。
「良介君、この本、読んだ事あるんでしょ」年代と言い、先程からの様子と言い、それは想像に難くなかった。
「あるよ」良介君はこくりと頷いた。
「それでどうしてこの本を? 懐かしくて……っていう顔でもないわね」
どちらかと言えば暗く沈んだ表情。私は更に声を落とした。
「また呪われた本とか言わないでしょうね? 読んではいけない本、とか」以前にも一度、私達は此処で兼ねてから噂にもなっていた本を見付けている。
けれど、良介君は頭を振って、微苦笑した。
「大丈夫だよ。そんなんじゃないから。只、その本は……今、他の子に読ませたくないだけ」
「どうして? もしかして、元は良介君のだったとか?」
良介君は首を横に振った。だったとしても今はこの図書館の蔵書なのだから、気にはしない、と。
「じゃあ……どうして、今、なの?」私は少し考えて、訊いた。他人が読むのは構わない、と言うのなら問題なのは「今」という拘りだろう。
「クリスマス前だから」と、良介君は答えた。
そして説明を始めた。
「その本のお話はね、とっても寂しいお話だったんだ。クリスマスなのにその主人公の男の子の家にはサンタが来ない。来るのはサンタの振りをした、嫌な大人だけ。偽サンタは男の子から、色々奪って行くんだ。大事にしていた玩具、家族の写真、思い出の品……それからお父さんとお母さん……。そうして一人になった男の子に、最後の偽サンタが来て言うんだ。『お前は悪い子だから、こんな事になるんだよ。でももし今度からいい子になると約束すれば、奪ったものを返してやろう』って。
すばるお姉ちゃん、解るよね? 確かに乱暴者で悪戯っ子だったその子を改心させる為に、お父さんお母さんが人に協力して貰った芝居だったんだ。でも、その子は自分の所為でお父さんやお母さんが何処とも知れない所へ連れ去られたと信じ込んで、酷く自分を責めて、死んでしまうんだ。
クリスマス前に、そんな救いの無い話、他の子に読ませたくないじゃない」
確かに、と私は頷いた。
けれど――と、私は先程捲った時に目に付いていた、最後のページを繰った。
最後の、くっきりと墨色で書かれた一文だけを、声に出して読み上げる。
『けれどそれはクリスマスの朝の夢でした』
良介君は目を丸くした。そして本を覗き込み――頬を緩めた。心なしか、大きな瞳が潤んでいる。
「お父さんの字だ……」
明らかに後から書き足された一文。本来なら作品への冒涜を意味するその行為も、悲惨な物語を僅かでも和らげる為の、苦肉の策だったのだろう。
これなら今の子供達が読んでも、大丈夫かも知れない。
けれど、私は結局その本を借り受けた。良介君は寧ろ不思議そうな顔をしたけれど。
七歳にして死別した良介君とお父さん――例え魂と字という形でも、少しでも一緒に居させて上げたかったから。だってクリスマスも近いんだもの。
―了―
クリスマス~年末の準備って、年々早まってないですか?(^^;)
私は本をぱらぱらと捲ってみた。全体的に、薄いクリーム色の地にセピア色の印刷がなされた、絵本としては地味なものだった。そして古い。作者名も聞いた事さえなく、奥付けを見れば出版されたのはかれこれ四十年は前のものだった。
流石、元は個人所有から町に寄贈された経緯を持つ図書館。こんな古い本が、然も状態もよく残っているなんて。
私はそう感心すると同時に、ある可能性に思い至った。
「良介君、この本、読んだ事あるんでしょ」年代と言い、先程からの様子と言い、それは想像に難くなかった。
「あるよ」良介君はこくりと頷いた。
「それでどうしてこの本を? 懐かしくて……っていう顔でもないわね」
どちらかと言えば暗く沈んだ表情。私は更に声を落とした。
「また呪われた本とか言わないでしょうね? 読んではいけない本、とか」以前にも一度、私達は此処で兼ねてから噂にもなっていた本を見付けている。
けれど、良介君は頭を振って、微苦笑した。
「大丈夫だよ。そんなんじゃないから。只、その本は……今、他の子に読ませたくないだけ」
「どうして? もしかして、元は良介君のだったとか?」
良介君は首を横に振った。だったとしても今はこの図書館の蔵書なのだから、気にはしない、と。
「じゃあ……どうして、今、なの?」私は少し考えて、訊いた。他人が読むのは構わない、と言うのなら問題なのは「今」という拘りだろう。
「クリスマス前だから」と、良介君は答えた。
そして説明を始めた。
「その本のお話はね、とっても寂しいお話だったんだ。クリスマスなのにその主人公の男の子の家にはサンタが来ない。来るのはサンタの振りをした、嫌な大人だけ。偽サンタは男の子から、色々奪って行くんだ。大事にしていた玩具、家族の写真、思い出の品……それからお父さんとお母さん……。そうして一人になった男の子に、最後の偽サンタが来て言うんだ。『お前は悪い子だから、こんな事になるんだよ。でももし今度からいい子になると約束すれば、奪ったものを返してやろう』って。
すばるお姉ちゃん、解るよね? 確かに乱暴者で悪戯っ子だったその子を改心させる為に、お父さんお母さんが人に協力して貰った芝居だったんだ。でも、その子は自分の所為でお父さんやお母さんが何処とも知れない所へ連れ去られたと信じ込んで、酷く自分を責めて、死んでしまうんだ。
クリスマス前に、そんな救いの無い話、他の子に読ませたくないじゃない」
確かに、と私は頷いた。
けれど――と、私は先程捲った時に目に付いていた、最後のページを繰った。
最後の、くっきりと墨色で書かれた一文だけを、声に出して読み上げる。
『けれどそれはクリスマスの朝の夢でした』
良介君は目を丸くした。そして本を覗き込み――頬を緩めた。心なしか、大きな瞳が潤んでいる。
「お父さんの字だ……」
明らかに後から書き足された一文。本来なら作品への冒涜を意味するその行為も、悲惨な物語を僅かでも和らげる為の、苦肉の策だったのだろう。
これなら今の子供達が読んでも、大丈夫かも知れない。
けれど、私は結局その本を借り受けた。良介君は寧ろ不思議そうな顔をしたけれど。
七歳にして死別した良介君とお父さん――例え魂と字という形でも、少しでも一緒に居させて上げたかったから。だってクリスマスも近いんだもの。
―了―
クリスマス~年末の準備って、年々早まってないですか?(^^;)
PR
この記事にコメントする
Re:おっ
久し振りに書いてみました(^^)ノ
全てが夢……その一言が救いになる場合もありますよね。
全てが夢……その一言が救いになる場合もありますよね。
Re:こんばんは
クリスマス準備、早いっす★
お正月準備ももう直ぐっす(汗)
お正月準備ももう直ぐっす(汗)
Re:無題
鏡餅ですか(^^;)
う~ん、確かに季節感は段々ずれて来てる様な。
う~ん、確かに季節感は段々ずれて来てる様な。
Re:無題
咄嗟の一言にその人の人柄が表れる事もありますよね~(^^;)
Re:物語って…なんだ
何だろうね?
Re:良いお父様♪
早いっす(^^;)
まぁ、本来ならあかんやろう! という行為ですがね★
やはりクリスマスには夢を……☆
まぁ、本来ならあかんやろう! という行為ですがね★
やはりクリスマスには夢を……☆
Re:こんばんわっ^^
月も変わらん内からクリスマスです(笑)
良介君父こと鹿嶋氏、直接出番無いけどいい人設定♪
良介君父こと鹿嶋氏、直接出番無いけどいい人設定♪
こんばんわ!
流石良介君のお父さん、粋な計らいですね^^
しかし覚えているとは、良介君もショックだったんでしょうね。
そんな彼をお父さんが見て、という背景もあったりするのですかねぇ。
この話、良介君とお父さんの優しさに心を打たれつつも……
逆にそのお父さんを失った良介君の孤独な立場が浮き彫りになって、一際哀愁が漂っている気がします。
面白かったですよー^皿^b
しかし覚えているとは、良介君もショックだったんでしょうね。
そんな彼をお父さんが見て、という背景もあったりするのですかねぇ。
この話、良介君とお父さんの優しさに心を打たれつつも……
逆にそのお父さんを失った良介君の孤独な立場が浮き彫りになって、一際哀愁が漂っている気がします。
面白かったですよー^皿^b
Re:こんばんわ!
有難うございます~(^^)
小さい頃読んで、ショックで未だに覚えてる話と言えば、私の場合は「眠り姫」かなぁ、ペロー版の。後半が……未だに挿絵、覚えてますよ。蛇や毒虫の入ったでっかい壺……(((゜Д゜)))
小さい頃読んで、ショックで未だに覚えてる話と言えば、私の場合は「眠り姫」かなぁ、ペロー版の。後半が……未だに挿絵、覚えてますよ。蛇や毒虫の入ったでっかい壺……(((゜Д゜)))
Re:無題
有難うございます(^^)
お父さんも本好きなので、加筆する事には迷ったと思いますが、やっぱり哀しい話は読ませたくなかった様です。
お父さんも本好きなので、加筆する事には迷ったと思いますが、やっぱり哀しい話は読ませたくなかった様です。
Re:いいなあ
ちょっとした一言で物語は変わる……という訳で(^^;)
つきみぃさんも良いクリスマスを(早)
つきみぃさんも良いクリスマスを(早)
Re:おぉ~良介君
はい、お久し振りの良介君&すばるさんです^^
やっぱりクリスマスには……いっそホラーという手もありますが(←おい)
やっぱりクリスマスには……いっそホラーという手もありますが(←おい)