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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「通気をよくしてても、流石に梅雨時は何と無く湿っぽいわね」いつもの図書館に僅かに湿りを帯びた埃の臭いを感じて、私は呟いた。
 外は連日の雨が一旦止んで、曇り空。またいつ降り出すか解らない、そんな暗さに包まれている。
「山名さん達が除湿剤置いたりして、気を付けてくれてるんだけどね」そう答えたのはこの町立鹿嶋記念図書館付きの幽霊、鹿嶋良介君だった。数十年前に七歳で亡くなった姿の儘、この図書館に居る。最近はお出掛け先も増えた様だけど。「やっぱりこの時期は湿気対策に頭を痛めてるみたい」
「本の大敵だものねぇ。湿気とかカビとか……」私は小声で返す。相変わらず、良介君は私と同窓生の島谷君にしか――今の所は――見えていないし、その声も聞こえていない。他人に聞かれたら、怪しい人だわ。
「でも、今年は何だか湿気が多いみたい……。特別雨が多い様な気はしないんだけどな」
 そう言った良介君は、何か気になる事でもあるのか、立ち並ぶ書架の狭間へと歩いて行ってしまった。
 雨の所為か来客も少なく、どこかのんびりとした空気の流れる図書館で、私は暫し、本の世界に没頭した。 

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 お姉ちゃんのリボン、綺麗ね――道端で、そう声を掛けられて振り向けば、腰の辺りに小さな女の子の顔があった。
 小学校に上がったばかりだろうか。近くでは見掛けないデザインだけれど、小学校の制服らしき服の袖をだぶ付かせている。小さな顔にショートカット、と呼ぶには些か乱雑に切られた髪。大きな目で、私を――いや、主に私の長い髪とそれを結わえるリボンを――見詰めている。
「有難う」取り敢えず褒められた礼を言い、しゃがみ込んで目線を合わせる。「リボン、好き?」
 こくり、と女の子は頷いた。
「でもね、まいは髪短いから着けられないの」寂しそうに、そう言う。
「まいちゃんって言うの? じゃあ、いつか髪が伸びたら……」
 ぶるんぶるん、と勢いよく振られる首に、私の言葉は途切れた。
「伸ばせないの。ママに切られちゃうから。他のお友達みたいに髪の毛伸ばして、リボン着けたいって言っても『面倒臭い』って。『どうせママが着けて上げなきゃならないんだから、手間が掛からない方がいいのよ』って」
 自分でも眉間に皺が寄るのが解る。
 小さくても女の子。然も学校に上がって他の女の子達が――恐らくは母親に着けて貰ったのだろう――綺麗なリボンで可愛らしく飾っているのを見れば、それを羨むのも無理からぬ所だろう。
 それを『面倒臭い』で終わらせるなんて……。よくよく見ればこの大雑把なショートカットも、恐らくは素人だろうその母親が刈ったものではなかろうか。それを考えれば手を掛けているとも見えるけれど……それにしては大雑把過ぎる。
 かと言って、全く知らない家庭の事に口を出す訳にも行かないし――などと唸っていると、背後、と言うより頭上から声を掛けられた。

「さーないー? またそういうのに引っ掛かってるのか?」呆れた様な、しかし面白がっている様な男の声。
「島谷君」慌てて、バランスを崩しそうになりながらも立ち上がる。
 背後に居たのはかつての同級生の島谷君。そして――この所彼と意気投合したのか、時折遊びに行くようになった鹿嶋良介君。霊感持ちの島谷君と元・図書館の自縛霊の良介君。考えてみればおかしな取り合わせだわ。
 それは兎も角。
「そういうのって何よ?」私は口を尖らせた。小さな女の子に対して「そういうの」はないでしょ。
「未だ気付いてないし……」仕方のない奴だと言わんばかりの苦笑。
「すばるお姉ちゃん」と、良介君。「あのね、その子の着てる制服、僕の学校の制服だよ」
「え? 良介君が通っていた学校って、確か私の母校の前身……」でも、私が着ていた制服はこんなデザインじゃなかった。真逆……?――不穏な想像が脳裏に浮かぶ。
「だからね」その想像を後押しする様に、良介君が微苦笑しながら言った。「僕が通っていた頃の制服だよ。その後変わったのかも知れないけど」
「!」慌てて女の子に振り返ると、どこか寂しそうな表情の儘、その姿はすぅっと消えていく所だった。

「佐内、今回の子は特に害意が無かったからいいけど、余り幽霊の相手は……って、良介君の前で言うのも何だけど」私を気遣ってだろう、島谷君が注意してくれている。「多分、小さい頃に亡くなったんだろうな。余り母親に構って貰えなかった――そんな寂しい念が残ってる。今で言うネグレクトに近かったみたいだ……」
「そんな……」私は思わず非難めいた声を上げる。それは見知らぬ女の子の母親に対してなのか、目の前で淡々と語る島谷君に対してなのか。
「けど、それはもう済んでしまった事だ。今の俺達に出来る事は無い――精々あの子の成仏を祈る位しか。冷たい様だけど……割り切らなきゃならないんだよ」割り切らなきゃ、と言う島谷君の目が伏せられる。それでもやや冗談めかした口調で、こう締め括った。「霊感持ちをちゃんと自覚してた先輩の言葉は聞いときなさいって」
 私は一応神妙に、頷いた。確かに、もう何十年と経って、私達に出来る事は殆ど無い。あの子の事はまいちゃんという名前しか知らないし、今更その母親に文句を連ねた所で、あの子が生き返る訳でもない。
 只……。
「リボン、上げたかったな……。大きくなって、自分でちゃんと出来るからって髪伸ばして、お洒落してるあの子を見たかったわ」
 私は髪を留めていた薄い紅色のリボンを解き、それを風に乗せた。
 何処に帰って行ったのかも解らない、あの子の元に届けと祈って。

                      ―了―

 どんどん図書館が遠ざかってる気が……(^^;)
 
 【お知らせ】
 サムネイルサーバーメンテナンスを、下記の日程にて行わせていただきます。
 ■日時 2009年4月17日(金) 13:00~18:00 なお、メンテナンス中は忍者ブログ、忍者ホームページ等で掲載されているサムネイルが一時的に取得できないくなりますので、表示がなされない状態となります。こちらにつきましては、メンテナンス終了後順次再取得されるよう対応いたします。 ご利用いただいております皆様にはご不便をお掛けいたしますが、何卒ご理解・ご了解いただけますようお願いいたします。

 という事ですm(_ _)m

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「すばるお姉ちゃん」
「佐内」
 角を曲がろうとした矢先、そう左右から声を掛けられて、私は脚を止めた。
 いつもながらの図書館からの帰り道。日が長くなりつつあるとは言え、未だ春遠く、辺りは宵闇に包まれ始めている。強い風は冷たく、私の身を竦ませた。
 そんな夕刻、私に同道するのは町立鹿嶋記念図書館に住み着いていた幽霊、鹿嶋良介君――と、もう一人。その図書館で先日再会した高校時代、霊感少年と学校で有名だった同級生、島谷君だった。どうやら最近こちら方面に越して来たらしく、彼も度々図書館を利用しては、今日の様に送ってくれる事もあった。彼の家も図書館から近いらしく、車では来ないのが残念だけど。
 それは兎も角、私が脚を止めたのには訳があった。
 三人で黙々と歩いている訳ではないのだから、呼ばれる事なんて珍しくない。けれど、さっきの二人の声には、それ迄の雑談とは違う響きが感じられたのだ。
「どうかした?」私は訊いた。

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 町立鹿嶋記念図書館には当然、色んな人が来る。
 だから中には私の知人や友人も、偶然居合わせる事が、稀にあるのだけれど――彼に会ったのは幸運だったのか、不運だったのか?

 その日も私は窓際の書見台で、小さな声で昔話を読んでいた。
 勿論、今は亡きこの図書館の設立者の息子にして――本人も疾うの昔に幽霊となって、此処の住人となっていた鹿嶋良介君に聞かせる為に。
 良介君は私の横から本を覗き込む様にしながらも、聞いている。その姿は私にしか、見えていないけど。
 と、不意に背後から声が掛けられた。
「佐内? 佐内すばるじゃないか?」
 聞き覚えのある声に、私は振り返った。そこに居たのは私と同年代の男性。そしてその容貌にはどこか見覚えがあった。
「ええと……島谷君? もしかして」私は高校時代の同級生の名を上げた。
 彼は当時と同じ、人懐っこい笑顔で頷いた。そして、ふと、表情を改めて訊いた。
「ところでいつ、子供が出来たんだ? 然も……」
 彼の視線はまさしく、良介君の佇む場所を指し示していた。

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 一年って早いわね――馴染みの図書館の子供向けのコーナーに施された飾り付けを見て、私は思わず溜め息をついた。今年もまた気分が浮き立ちながらも忙しい、そんなシーズンに突入するのだ。
 深いグリーンのツリーには様々なオーナメントが吊り下げられ、白い綿の雪に彩られている。
 勿論、書架にもサンタクロースが勢揃いだ。
 可愛らしい絵柄や、コミカルな絵柄、そんな子供受けするだろう絵本の中に一冊だけ、モノクロのスケッチ画の様な表紙の絵本がぽつり、周りから浮いていた。
 と――。
「すばるお姉ちゃん」くいっと髪を引かれる感触。
 私は斜め下を見下ろした。そこには元々この図書館に住み着いていた、鹿嶋良介君――享年七歳。
 何故か私にだけ見える、この町立鹿嶋記念図書館の創立者の息子さんの幽霊。そして最近はもっぱら私のマンションに出没中でもある。
「どうかしたの?」そっと、尋ねる。私にしか見えてないんだもの。普通に訊いたら私がおかしい人みたいじゃない。
「あの本、借りてくれない?」そう言って指差したのは、先程のモノクロ絵本。
 いいわよ、と気安く答え掛けたものの、その表情が気になって、私は僅かに躊躇した。
 良介君が読んで欲しい本を指定する事は珍しくない。けど、そんな時、この本好きの幽霊はさも楽しそうに、これから出会う物語に目を輝かせているのだ。
 なのに件の絵本を見る良介君の表情に、そんな期待感は微塵も無かったからだ。
「あの本――何なの?」私はそう、問い返していた。 

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「へぇ……屋上にドッグランねぇ。犬好きにはいいマンションじゃない」私は友人宅を訪ねて、感想を述べた。
 無類の犬好きで、今もヨークシャーテリアとゴールデンレトリーバーを飼っている友人。ところが今迄住んでいた郊外から、仕事の関係で都心に引っ越さなければならず、さりとて犬を置いても行けず、割高を覚悟でペット――特に犬――OKの場所を何とか探し出したのが、つい半月前の事。犬の飼育OKと言うよりも、最早犬を飼う為に設計された建物の様に、私には思われた。
 玄関ロビーには散歩から帰った犬の汚れを落とす為の共用の水場。飲料用の水場もご丁寧に別に設けられている。
 各部屋の防音機能はかなり高く、飼い犬が他の犬の声に怯える事も殆ど無い。各階の廊下も広く、犬同士の接触にストレスを感じさせないように、造られているらしかった。
 そして極め付けは屋上ドッグラン。七階建てマンションの屋上にはぐるりとフェンスが張り巡らされ、そこではリードを外した犬が自由に走り回れるようになっている――らしい。

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「何か……変な感じなんだけど」私、佐内すばるは横を見下ろして、小声で言った。「つい来ちゃったけど……」
 目の前に広がるのは墓苑。磨き上げられた御影石の森が見渡す限り続いている。その一画に、鹿嶋家の墓所があった。
 いつもの様に図書館に行った私は、偶然司書の山名さんが出て来るのに出くわし、彼にこの図書館を託した鹿嶋氏の墓参りに行く所なのだと聞いた。
 鹿嶋氏――もう数十年も前に資財を投げ打ってこの図書館を設立し、死後は町に寄付した人。それは彼の父親の罪滅ぼしの一つだったのだと聞いている。かの父親の売った武器で亡くなった人達の霊に苛まれていたとも。繊細で心優しい方だった様だ。
 そして、今私の横に居る鹿嶋良介君のお父さんでもあった。そんな諸々の事情を知ってしまい、袖すり合うも他生の縁と、山名さんに付いて来たのだけれど。
 その良介君はきょとんとした顔で私を見上げているけれど、やっぱり変な感じだわ。
 だって、確かにこの墓所には幼くして亡くなった良介君のお骨も納められているのだろうけれど、その当人の魂とも言うべき霊が……私の直ぐ横に居る。
 これって、お墓参りにはなってるのかしら?――些か疑問に感じながらも、山名さんを手伝い、お墓周りの掃除をし、線香を供える。この墓苑、生物は置けないそうだから、ちょっと味気ないけれど造花で代用。
 山名さんと一緒に拝みながら、ちらりと横に視線を走らせると、良介君も小さな手を合わせていた。
 やっぱり何だかおかしな感じだわ――不謹慎ながらも思わず微苦笑が浮かぶ。
 と、それに気付いた良介君が私を見上げて訊いた。

「僕、あっちに行った方がいい?」彼が指差したのは鹿嶋家の墓所。
 それは只場所としての墓を指しているのではなく、もっと別の次元を指している様だった。多分、行けば滅多に会えなくなる……。私は返答に詰まった。
 成仏、という事ならば霊という中途半端な状態の良介君にとってはいい事なのだろう。多分。私も以前はそれを望んでいた筈。
 なのに今、私は言葉に詰まっていた。
 私はどうしたいんだろう?――考えが煮詰まるより前に、良介君が再び口を開いた。
「でも、未だ読みたい本が一杯あるんだ。だから行かないよ」
 そう言った無邪気な笑顔に、思わずほっとした私は――やはりおかしいのだろうか?
「読みたいって……読んで上げてるのは殆ど私じゃないの」そう言って慌てて膨れっ面を作ったけれど、口角が上がっていた事は、自分でも解っていた。
 良介君が読みたいと言う本は次々に出版されてくる。これはいつになったら縁が切れるのやら……。
 切れなくてもいいか、と考えている自分が居る事に、内心、私は気付いていた。
 
 良介君が成仏する迄には、私はどれだけの本を読んでいる事やら。

                      ―了―

 お墓の主の一人がお墓参り(笑)
 良介君、それでいいのか?

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