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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 数分前に川に投げ捨てた筈の鍵を机の上に発見して、少年ははっと息を飲んだ。
 気味が悪そうに遠巻きにしながらも、それが間違いなく、あの鍵だと確認する。
 しかし、それは確かに中学からの帰り道、橋の上から投げ捨てた物……。
 誰かが拾って届けた?――しかし、鍵にはキーホルダーすら付けられておらず、彼の物だと示す様なものは何も無い。それにもし彼が投げ捨てた所を見ていたとしても、態々川底から拾い上げて届けるだろうか? 然も、この部屋に? この家では誰よりも早い、彼の帰宅よりも先に。
「一体……」彼は何かおぞましい物を見る様な目で鍵を注視し、やがて触るのも嫌だと言う様に、それを傍らにあった本で滑らせて、ゴミ箱に落とし入れた。
 最早部屋に置きたくもなかった――元々、だからこそ川になど投げたのだ――が、もう一度捨てに行くにはこの鍵に触らなければならない。それも嫌だ。それにもし、また捨てに行って帰って来た時、此処にあったら?
 その恐れは直ぐに現実となった。
 ゴミ箱に落とした筈の鍵が、ちょっと目を離した隙に机の上に戻っていた。
「バカな……!」彼は思わずそれを本で叩き落とした。鍵は床の絨毯の上にぽとり、落ちた。
 また移動していたらと、彼は目を逸らす事も出来ずにそれを注視する。
 と、不意に窓際から、どこか笑いを含んだ声が聞こえた。
「酷いわねぇ。届けてあげたのに」
 慌てて視線を巡らせれば、そこにはいつ入って来たものか、茶色の髪に青いリボンの、十歳ばかりの少女が微苦笑を湛えて立っていた。

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 奇妙な館だった。
 半分が古めかしい石造り、もう半分がそれに似せてはいるものの後から付け足したのが明白な新しい建材だというちぐはぐさもさる事ながら、本当の奇妙さは室内にあった。
 寝室、居間、応接間……それどころか客間、食堂、遊戯室と、至る所に同じ人形が飾られている。顔立ちも同じならば服装も全く同じ、全ての造作が同じ人形が。
 余程、この館の主である老婆の気に入りなのかも知れないが――稀に泊まりに来た親戚や友人は陰で囁いていた――いつも同じ人形に見張られている様で、気味が悪い。自分がどの部屋に居るのかさえ、判らなくなる事さえある、と。そうして徐々に、彼等の足は館から、そして老婆から遠退いて行った。
 それでも彼女は一人、通いの家政婦に身の回りの世話を頼みつつも、人形を愛で続けていた。館に十数体ある、同じ人形を。

「どの子が一番大事なの?」庭に面したテラスで、人形の髪を梳いていた老婆に声を掛けたのは、十歳ばかりの少女だった。栗色の髪に青いリボン、青い服がよく似合っている。
 勝手に入って来た事を咎めもせずに、老婆は小首を傾げた。
「どの子が一番大事って事はないわ。皆、大事な私の子よ」微笑んでそう答え、また人形に目を戻す。
「ふぅん……?」今度は少女が首を傾げる。「でも……寂しがってる子が居るんだけどね?」
「え?」顔を上げた時、そこには少女の姿は無く、テーブルの上に一本の鍵が残されていた。
 老婆は暫し、その鍵を凝視し――人形を手から滑り落とすと、最早それを見向きもせずに、そのやや重厚な鍵を手に取った。

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「鍵を捜してくれないかい?」上体だけを起こしたベッドに身を沈めながら、老婆は目の前に立った少女に言った。齢九十は越えているのだろうか。もうすっかり、目も脚も弱っている様で、老眼鏡を幾度も調節している。
 それに対して、目の前の少女――栗色の髪によく似合う青いリボンを付け、青い服を着た十歳ばかりの少女――は、にべもなく言った。
「嫌よ」と。
「おやおや」老婆は幾分態とらしい程に目を丸くした。「鍵を捜すのが嫌だって? あんたは、ありすだろう?」
「正確には、貴女の鍵を捜すのは、嫌」少女は言い直した。
「思い出の鍵を捜して欲しいっていう、この年寄りの願いが聞けないのかい?」哀願の様でもあり脅迫の様でもあるその声に、しかし少女は眉一つ動かさずに、頭を振った。
「未だ開ける物がある鍵は持ち主の手に」謡う様に、彼女は言った。「最期の鍵は我が手に……貴女の鍵はそのどちらでもないもの。もう二度と開けられる事はない、けれど、最期でもない――封じ続けなければならないんだもの」

 貴女という、この屋敷に巣食った悪霊を。

 そう言い残して、少女は何処へともなく姿を消した。
「おのれ……!」誰も居なくなったくらい部屋で、老婆は鬼人もかくやという表情で歯噛みした。身体の弱った老婆という、過去に纏っていた姿をかなぐり捨て、本性を現したのだ。
 かつてはこの家に心安らかに住んでいた彼女だったが、密かに慕っていた人と親友との挙式以後、人間不信を、そして心の病を募らせた。
 ――あの人を慕っている事を、親友の彼女にだけは話したのに……! 私の心を知りながら、彼女は私を裏切った! 絶対に許せはしない……!
 以前から付き合いはあったけれど、申し訳なくて言い出せなかったのだと言う親友に、表面上は笑顔を向けた。数少ない親友さえも失うのが、怖かったから。
 だが、その表面と内面との乖離は更に彼女の心を乱れさせ、闇を深くした。
 いっそ罵詈雑言を浴びせ掛け、涙で流してしまえばよかったのかも知れない。だが、僅かな矜持も邪魔したのだろうか、彼女はそうせず、内に籠った闇は彼女の死後、その魂をこの屋敷に留まらせてしまった。
 悪霊として。

 以降、この屋敷に立ち入る者には不吉の影が降り、更には恐ろしい老婆の姿の目撃も後を断たなかった。
 当然、人は遠ざかった。しかし、立地的には一等地と言っていいこの土地と、年代を感じさせる重厚なこの屋敷を遊ばせておくのをよしとしなかった管理者は、呪い師を雇い、彼女を封じてしまったのだった。

 だが、封印にも鍵がある――老婆は目を光らせた――それは物理的な物だったり、何かの切っ掛けだったり、様々だ。
 だが、何にせよ此処から出られる可能性は未だ、ある。
 ありすに断られようと、この屋敷に好奇心旺盛な人間が出入りする限り、その切っ掛けは訪れるかも知れない。これ迄待ったのだ。未だ未だ、待ってやろうではないか。
 そしていずれ、この屋敷の鍵を、親友と思い人の子孫が手にするように……。
 暗闇の中、老婆のくぐもった笑い声だけが、遠雷の様に低く響いていた。

                      * * *

「ご苦労様」少女は鍵を鍵束に収めながら呟いた。
 それはあの屋敷の鍵。最早老朽化し、危険だからと取り壊しが決まった建物の鍵。
「どれだけ待ったって、二人の子孫は来ないってば」少女は肩を竦め、一度だけ、屋敷を振り返った。「その状態じゃ、貴女に鍵なんて無用の長物でしょ。貴女は……自分の心に籠った儘なんだから」
 封印以前に、老婆には自身で設けた強固な鍵が存在していた。
 そこから出る鍵は自分にしか見付けられないの、と苦笑を浮かべ、少女は夜の闇に姿を消した。

                      ―了―
 眠い、眠い(--)。゜

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 折からの風を受けて強まった吹雪に、ストールに身を包んだ女は身を竦めつつ館中の戸締りを確かめて回る。荒れ模様を報じた天気予報を受けて、鎧戸は既に硬く閉じられている。それでも、彼女は不安だった。
 この分では街に出た夫は帰って来られないだろう。きっと直、電話が入る。戻れなくなったから、戸締りをきちんとして、休んでくれ、と。
 あの夜もそうだった様に……。

 郊外の館と言っても然して大きなものではない。堅牢な洋風の造りが、実際以上に館を大きく、厳しく、そしてさも金が掛けられている様に見せているのだろう。
 実際には傍が羨ましがる程、裕福な訳でもない、と時折女は苦笑する。
 この館を遠縁の伯母から受け継いだものの、冬には深い雪に囚われる土地で、夫は通勤にも苦労している。勿論、買い物に出るのも一苦労だ。伯母から受け継いだ、大好きな館ではあったが、いっそ売って街に出ようかとも相談していた。だが、この立地条件では高額での売却は厳しいのではないかと知り合いの不動産関係者にも言われてしまい、逡巡していた――約一年前迄。

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「此処から出たいの」硝子の扉に両手を添えて、彼女は懇願した。「お願い。この扉の鍵を……鍵を開けて頂戴!」
 厚手の硝子扉の向こう、暗い廊下では一人の少女が小首を傾げて、彼女を見ている。茶色い髪に青いリボン、青い服の十歳ばかりの愛らしい少女。腰のベルトには幾つもの鍵の繋がれた鍵束を下げている。
 だが、少女は値踏みする様に彼女を見るばかりで、動こうとはしない。
「ねえ! その中に此処の鍵があるんじゃないの? お願いよ! この扉を開けて!」苛立ちを抑えて、彼女は哀願する。「此処から出たいの! もう此処には居たくないのよ!」
「どうして?」悪戯っぽい笑みを浮かべつつ、少女が尋ねた。「そこは貴女のお部屋でしょう? 貴女はそこに居れば汚れる事もない。なのに何故外に出たいの? それに何故、貴女は自分の部屋の鍵を持っていないの?」
「それは……」彼女は口籠る。「誰も鍵をくれなかったからよ。外に出られるのはいつも誰か一緒の時だけ。皆が私を大事にしてくれていたのは解っているわ。でも、もう私は一人で大丈夫。それに最近ではもう誰も来ないのだもの。だから、一人で……外に出たいの」
 違う、と少女は頭を振った。
「何が……違うと言うの?」
「貴女が鍵を持っていないのは、貴女が持つ理由が無いから。この鍵は貴女をそこに閉じ込める為だけのもの。だから貴女に渡ってはこの鍵の存在理由が無くなる――だから、渡す訳には行かないわ」
「何故!?」眼を吊り上げて、彼女は両手で扉を叩く。「何故私を閉じ込めるの!?」
「それはね」少女は言った。「貴女がこの家の人間を呪う為に政敵から贈られた人形だから」
 
 余りの恨みの念に、こんな短期間で貴女自身が意思を持ってしまうなんて、私も驚きだわ――少女の言葉が耳を素通りして行く――厄介なものよね。貴女を粗末に扱えば凶事が起こるし、お寺や神社も匙を投げたらしいし。だから仕方なくこうして飾って祀り上げて……それでも、家は滅びたらしいけれど。
「私は……」彼女の黒い目が、小さな両手を見る。爪は模られているものの、生えている訳ではない。長い黒髪も、植えられたものだ。丁寧な作りの着物も、あくまで本物のミニチュア版。「人形……」
 ちゃり、と音を立てて、少女は鍵束から一本の鍵を取り出した。
「家が滅びて、この鍵はこの家の人には必要なくなっちゃったわね。けど、貴女の中には深い恨みの念が封じられている……。出す訳には行かないの」
 これ迄ご苦労様――そう言って、少女は別の鍵束に、鍵を繋いだ。
 それはもうその鍵が手に入らない事を意味するのだと、彼女は直感した。
 それでも、彼女は言った。白い顔に浮かぶ、紅を歪めて。
「お願い、此処を壊してもいいわ。私を出して。私は此処から出て――私にこの念を籠めた人達に、復讐に行くのよ」

 頭を振って、少女は立ち去った。
「鍵が開かれる事はない。けれど……」一度だけ、僅かに振り返る。「人を呪えばそれは何れ返って来るもの。貴女を本当に閉じ込める事は、そんな扉じゃ無理かもね」
 鍵が関わらなくなった今、もう私には関係ないけれどね――そう笑って、少女は暗闇に沈む屋敷から、姿を消した。

                      ―了―


 いつ、いつ、出やぁる(笑)

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「ねぇ!」久し振りに見た通行者に、彼は尻尾を振らんばかりに喜色満面、呼び掛けた。
「うわぁ!」声を掛けられた方は飛び上がらんばかり。「いきなり大声で吠え掛かるなよ!」
「吠え掛かるだなんて……。驚かせたのは悪かったよ」彼はしゅんとしつつも、話を続ける。「ねぇねぇ、君、僕の鍵、知らないかな?」
「鍵? 知らないな。必要ないもんだからな」
「そうかぁ……」心底残念な思いで、彼は俯く。「僕、もうずっと此処から動けないんだ。誰か知らないかなぁ」
「鍵の事なら、ありすに訊くんだな」
「ありす? どんな子?」
「茶色の髪で青いリボンと服で……」
「茶色? 青? それじゃ解らないよ」遮って、彼は悲しげな声を上げた。
「あー、兎に角、一見人間の女の子だ。腰に付けた鍵束ジャラジャラさせてるから、直ぐ解るよ!」
「ああ、それなら解る!」一転して自信満々。
 感情の起伏の激しい奴だ、と通行者は呆れる。
「ありすに声を掛けるなら、さっきみたいに吠え掛かるんじゃないぞ? 怒らせたら大変だ。じゃあな」
 尖った歯を見せてにやりと笑うと、未だ話をしたそうな彼をよそに通行者は行ってしまった。

 暫くの後、項垂れていた彼は、金属の擦れ合う音を耳にして、顔を上げた。見れば、人間の女の子が歩いて来る。腰のベルトには数多の鍵。
 ありすだ!ーー思わず大声で呼び掛けようとして、先程の忠告を思い出して止まる。
 仕方なく彼女が近付いて来るのをジリジリしながら待ち、なるべく穏やかに声を掛けた。
「ありすさん、ありすさん、お腰に付けた……」
「吉備団子は持ってないわよ」
「は?」
「何でもないわ。聞き流して」涼しい顔で、少女は言う。「それより何の用?」
「その鍵の中に、僕の鍵が無いですか?」彼は勢いこんで尋ねた。
 しかし、返ってきた答えは実にあっさりとーー。
「無いわ」
「そ、そんなぁ……。そんなにあるのに。せめて捜してから言って下さいよ! 僕、もうずっと此処で待ってるんです! 待ってるようにって言われて……それからずぅっと、此処から動けずに……」
「だって、鍵束に繋げる物じゃないもの。貴方の鍵は」
「え?」
「第一、貴方の鍵は貴方自身が作り出してる様なもの。待ってるように言われて、それを守るっていう貴方自身が鍵なんだもの」
「僕自身が鍵……」呆然と、彼は呟く。
「だから敢えて鍵を開けるなら、こう言ってあげるわ」少女は微笑む。「よし!」
 ぴくり、凛々しくも半ばで切られた耳を立て、彼は一旦その場に正しい姿勢で座ると、少女に一声吠えて、駆け出した。何処とも知れぬ場所へと、楔を解かれて。

「ご苦労様……なのかな?」流石に少女も小首を傾げた。「まぁ、待ての命令一つで死後迄その場に留まれる、その忠誠心には脱帽だわ。ドーベルマン君」
 一つ肩を竦めて、少女は再び歩き出したのだった。

                      ―了―
 短めに行ってみよう(・・)ノ  

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「どこから持って来たのか知らないが、そんな鍵もう要らないよ」上半身を持ち上げたリクライニングのベッドに身を沈めた儘、老人は緩やかに――本人としては精一杯の力なのだが――手を振った。
「そう言わないで、お爺さん」ベッドの横に立った少女が笑う。「この鍵の、最後の仕事なんだから」
「最後……」その言葉に、ぴくりと眉が跳ね上がる。「……私と、同じか」
 それについては何も言わずに、栗色の髪に青いリボンのよく似合う少女は、老人の皺だらけの手にそっと、一本の鍵を乗せた。
 老人は鍵をじっと見詰める。
「あの時も……この鍵を素直に受け取っていればよかったのだろうか?」
 老人の呟きに、少女は「知らないわ」とばかりに微苦笑を浮かべて、肩を竦めるばかりだった。

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HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
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