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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 夜霧――夜原霧枝先生――が貴田月夜と組む羽目になった学園主催の販売会……要するにフリーマーケットはもう終了したかも――。
 それでも今回ばかりは、関係ありはしなかった。僕は自分のクラスの催しが終わると、急いで販売会場へと向かった。
 それで二人が休息に行った事を聞かされた。
「何か、君から電話があったからって待ってたのに、なかなか来ないからって、不機嫌そうに行っちゃったよ?」留守番の先生が心配そうにそう囁く。「で? 何を探してたんだい?――見当たらないなぁ。もう売っちゃったのかな、夜霧先生」
「そうですか」僕は肩を落とした。「でも、さっさと休息へ行っちゃうなんて……。言い訳位はしたいです」
「ああ、それなら……屋台の方へ行くって言ってたから、捜してみたら?」
 そう言う先生にぺこりと頭を下げて、僕は駆け出した。

 この週末、我が学園ではチャリティー関連の催しが行われていた。感覚的にはちょっと大規模な文化祭といった所か。一般に開放して英語劇やら研究発表やらを行っていたのだ。
 只、如何せん、この学園は山の中。勿論父兄には予め知らされているが、一般の人がちょっと立ち寄るには立地条件はよくない。そこで生徒が作った物等を並べた販売会場及び屋台は山麓の街の広場を借り受けていた。学園と会場間の移動にはマイクロバスも使われていたけれど、それは殆どお客様用。僕は自転車で――安全な速度と法規を守りつつも――急いで降りて来たのだった。

「あ! 真田弟、今頃来たの?」焼きそばの屋台に居るのを見付け、駆け寄った僕に開口一番、夜霧はそう言った。一緒に居た筈の月夜は別の店に行ったのか、取り敢えず姿は見えない。
「これでも出し物終わってから、急いで来たんですよ」大きく息をつきながら、僕は思わず脱力する。「もう売れちゃいましたか?」
 少なくとも売り場には無かった。それでも一縷の望みを掛けて――と言うか、諦め悪く、僕はそう尋ねた。
 丸で焦らすかの様に屋台で五千円札を出してのんびり焼きそばを買った後に、やっと振り返って夜霧は言った。
「ええ。売っちゃったわよ」
 そしてがっくりと肩を落とす僕の視線を誘導する様に、立てた人差し指をすっと、横にスライドさせた。
「あっちの……真田兄に」
 そこでは僕の双子の兄、京が月夜と共にたこ焼きの屋台に並んでいた。

「いつの間に来たんだよ、京?」僕の頬が膨れているのは、決して熱いたこ焼きを慌てて食べてしまった所為だけじゃあない。「同じクラスで、出し物が終わる迄一緒に居たじゃないか。何で先に来てるんだよ?」
「それは勿論――」京は何を当たり前の事をと言いたげな顔で宣った。「バスで来たんじゃないか」
「あれは一般のお客さん用だから、生徒は自粛するように……って、言ってたのは何処の誰だっけ?」
「その一般のお客様――正確にはお婆さんが場所が解らなくて困っておられたから、一緒に乗ってお教えしようと……。やはり日頃の行いの差だな、祥」言って、京はにやりと笑う。「お年寄りには親切にして置くもんだ」
 ぐ……と僕は言葉に詰まる。
 元はと言えば、僕が京の失敗作を出品用と一緒に出してしまった所為なんだけど……。そして人一倍、失敗を人に見られたくない、この見栄っ張りの兄貴に怒鳴られた所為なんだけど……。
 僕はぐったりと、広場に設置された丸テーブルに突っ伏した。
「こら、寝るな。未だ午後の部があるんだぞ?」こんこんと、京が僕の頭をノックする。
 僕の休息時間は、こうして潰れたのだった。

                      ―了―


 お疲れさ~ん(^^;)

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 今日夜霧――担任の夜原霧枝先生――は、学園の建物内の絵画をつぶさに見て回り、その内、紫外線や蛍光灯による日焼けや褪色の見られた物が次々と回収された。
 何でも、教頭先生から、絵画が傷んでいると注意を受けたそうなのだが……。
 勿論、夜霧の機嫌は最悪だった。

「まぁ、大事にするには越した事はないですよね」結局、回収を手伝わされながら、僕は愛想笑いを浮かべた。「美術部の人達が描いた物なんでしょう? 先輩方とか……」
 因みに、回収作業にはいつもの顔触れ――双子の兄の京、同級生の知多勇輝と間宮栗栖も付き合わされている。別に僕達は夜霧の助手じゃあないんだけどなぁ。
 ともあれ、僕が言った様に学園内に掛けられている絵の殆どは、美術部の作品だった。それは、校長室とかには名のある画家の作品が飾られているけれど。
 だからまぁ、絵画とは言ってもその価値は金銭的なものではなく、思い出や記念といったものだろう。
「それにしても、直射日光が当たらないように窓から離して掛けてあっても、日焼けとかするものですね」両手に額を抱えた京が、夜霧に言った。
「蛍光灯の灯だって、直射日光程じゃないけど、やっぱり絵画にとっては敵よ」また一枚、絵を検めながら夜霧は答えた。「学園内なんて、曇で薄暗かったりすると昼間でも蛍光灯点けっ放しじゃない。北側にある職員室前なんて特に。だから最初、廊下に作品を飾る事になった時、私は教頭にそう言ったのよ。それでも飾らせておいて、今頃……!」
 夜霧の目が怖い。
 どうやら火に油を注いでしまったらしい。ここは迂闊な事を言って更に煽る事のないよう、黙々と作業を遂行するべきか。
 そんな僕の思惑とは逆行する様に、京は更に話を続けた。

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 夜霧――夜原霧枝先生は、学園近くの雑貨屋、亀池屋の店頭の日溜まりを占拠する猫達について、店の人と話をする筈だったのだそうだ。
 五匹居るその野良猫達を、引き取りたい、と。

「先生、猫飼った事あるんですか? 預かったとかその程度じゃなくて」話を聞き付けた京が尋ねる。
 それに対して、夜霧はあっさりと首を横に振った。実家の方では犬を飼っていたから、飼いたくても飼えなかったのだと。
「初めてでいきなり五匹は無謀でしょう」流石に京も呆れる。勿論、僕も。
 幾ら一軒家を借りる事になって猫を飼えるようになったからと言って、浮かれ過ぎだろう。
 先ずは一匹から始めるべきでは?
「だって、あの中から一匹選ぶのも何かねぇ……」夜霧は腕を組んで考え込む。
 因みに件の猫達はどうも親子らしく、やや大柄な黒の母猫と、黒い子猫、白い子猫、灰色の子猫、そして三毛猫が各一匹。父猫は当然、判らない。猫の特性上――子供達の毛色を見ると尚更――父親は一匹とは限らないし。
「先生はどんな猫が好きなんですか? 黒猫とか、白猫とか……」僕は訊いた。
 それに対する夜霧の答は――猫なら何でも、との事だった。
「白や黒の単一色の子も綺麗だし、斑紋や縞の入った子もいいし、三毛もそれぞれ柄が違って見てて飽きないし……選べないわね」
「でも、五匹一度には無理でしょう? 世話も大変だし、予防接種とかに掛かるお金も五倍ですよ?」と、京。「先ずは一匹飼って、先生ご自身も猫を飼う事に慣れてから、多頭飼いに挑戦したらどうですか?」
「そうは思うんだけど……」唸る、夜霧。意外と優柔不断なのかも知れない。
「猫の為にもその方がいいと思いますよ?」
「それを言われると……」珍しく、夜霧がたじろぐ。猫の為、と言われると本当に弱いらしい。
 仕方ない、と一匹を選ぶ事にして、亀池屋に向かった。
 何故か、僕達兄弟も同行する事になった。一人だとやはり選べないから、と。

 亀池屋としては飼っている訳ではなく、引き取りたいと言う人が居るなら喜んで、という事だった。
「まぁ、この子達目当てに店に来てくれる学生さんも居るみたいだから、全員連れて行かれると困るかも知れませんがね」そう言って、店主は苦笑した。
 取り敢えず子猫達から母親を取り上げるのは論外という事で、自動的に母猫は候補から外された。
 問題は辺りをちょこちょこ動き回っている子猫達だが……。
「真田、あんた達ならどの子を選ぶ?」纏めて訊かれてしまった。
 初心者が飼うのだから、先ずは健康状態の良好な子を、と僕はそれぞれの子猫達を見て回る。
 どの子も野良にしては目脂もなく、毛艶もいい。見た所体格も似たり寄ったり、よく育っている。確かにこれは迷うよなぁ。
 京ならどうするだろう?――と見ると我が双子の兄はいつもの眉間の皺も何処へやら、すっかり和んでしまっている。
「あんた達も選べないんじゃない」夜霧に呆れられてしまった。
 こうなったら――と夜霧は亀池屋に入って行った。
 ややあって出て来た夜霧の手には煮干の袋。此処、そんな物迄売ってたのか。
「こうなったら向こうに選んで貰うわよ」そう言って掌に煮干を乗せる。「一番に来た子にするわ」
 それって、夜霧を選んでるんじゃなくて、単に煮干に釣られてるだけなんじゃあ――勿論、口には出さないけれど、思わず僕達は顔を見合わせた。
 やがて煮干に気付いたか、子猫達が動き出し、夜霧の手に一番に辿り着いたのは、灰色の子猫だった。
 夜霧の手を押さえ込む様にして一心に煮干を食べている灰色猫を抱き上げて、夜霧は満面の笑みを見せた。

 こうして夜霧は子猫を手に入れ、亀池屋の店頭からは一匹、子猫が減った訳だけれど……。
「まぁ、いいか。夜霧の所なら近いし……」少しだけ寂しげに京が呟いていたのは……?
 猫達目当てに亀池屋に来る学生――どうやら少なくとも一人は、我が兄だった様だ。
 もしかして、だから夜霧が五匹全部を引き取る事に反対したんじゃあないだろうね? 京?

                      ―了―


 夜霧先生、灰色子猫ゲット(笑)

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 昨日は栗栖は下級生達が行っていた学園の傍を流れる川の清掃――特に川筋に所々存在する深みを重点的に――監督してくれていた。
 大きな川ではないけれど、旧校舎の直ぐ傍を流れ、長年に渡って地下に染みた水がその足元を浚い――それで運の悪い僕が事故に遭ったという事実は季節が移ろうとも動し様がない。そんな、余りいい思い出のない川ではあるが、だからと言って何処からともなく流れて来たゴミや枯葉に埋もれていていいものでもない。
 春先の休日の川端の掃除、及び川浚いはこの学園の年中行事の一つでもあった。僕達も一年の時にはやったものだ。
 けれど、春先の川の水は未だ未だ冷たい。山の中だけに尚更だろうか。当然、面倒臭がってサボりを決め込む奴も、何人かは、出て来るのが常だった。
 それで我が兄にして男子寮の纏め役、京が本来ならば指示したかったみたいだ。
 が――。
 真逆、先日の夜霧の転居で扱き使われた所為ではないだろうが、京は風邪をこじらせてしまっていた。無論、そんな状態の京を未だ時折寒風の吹く中、野外活動に参加させる訳には行かない。
 ならばお前が代わりに行けと、京には言われたんだけれど……それじゃあ誰が看病するんだよ? そもそも監督の先生はちゃんと居るんだぞ?
 そう言い合っていると、自分が代わりに行くと申し出てくれたのが間宮栗栖だったのだ。

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 夜霧――夜原霧枝先生――は、有期で気違いじみた量の仕事をする筈だった。引越し、という大仕事を。
 いつぞや目を付けた一軒家を借りる事となり、それならばこの春休みの間に転居を済ませてしまおうという訳だ。まぁ、荷物の運搬は引越し屋に任せてしまえば済む事なんだけど……その片付けに関しては、夜霧は全て自分で監督したがった。
 しかし、予め構想はあっても、実際に置いて見ると何か違う、というのはよくある事。一応家具を置いては貰ったものの、今一つ気に入らなかったらしく……しかし女手一つでは大幅な模様替えは無理、という理由で結局、春休みにも寮に残っていた僕達にお鉢が回って来たのだった。
 やれやれ。
 
 僕達――僕と双子の兄の京、間宮栗栖、知多勇輝といういつものメンバー、それと運悪く珍しく残っていた亀池が捕まった。力仕事が主なので、先ずは男子連中を集めた、と夜霧は言っていた。こりゃ、掃除の段階になったら女子にも招集掛かるかも。
 それで皆で手分けして当たる事になったんだけど……亀池は自分からリビングを担当すると発言したんだっけ? リビング――と言っても和風の畳敷きだけど――は大きめの家具が少なく、楽そうではあったけど、その分ごちゃごちゃした物が多く、然も夜霧の指示も矢鱈と細かかったので、僕達は喜んで彼にその場を譲った。
 そして、僕達はそれぞれの持ち場で仕事に就いていた。大型の家具が多い寝室は僕と京の二人が、その他を栗栖達が担当した。
 単に指示通りに置いていけばいい、と思っていた僕達だったけれど、ちょっとした問題が持ち上がっていた。
 夜霧が此処を借りる事にした理由の一つが、猫を飼う為、というものだったからだ。
 詰まりは此処に生きた猫が加わる事となる。その猫に危険が無いように、そして夜霧の留守中も楽しく過ごせるように、それを考えて置いてみては修正、置いてみては修正を繰り返す事となったのだ。
 それを終えてやっとリビングに戻ったのが一時間半程、後。
 もう粗方片付いているだろうと思っていたリビングは、しかし一向に家具の移動も進んでおらず、そして亀池の姿も無かった。

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 今日夜霧――夜原霧枝先生――が放送部の幽霊部員、知多勇輝と一緒に放送室に入って行ったのは、例の事を告白する心算だったのだろうか?
 結局、おざなりな春休み前の注意に終わって、問題に触れる事無く終わったけれど。
 言わなかったのは生徒達の事を慮ったのか、彼女お得意の気紛れか……。ともあれ、休み前に一騒動あるかも知れないという、京の心配は杞憂に終わった様だ。
 尤も、実際はそんなに騒ぎにはならなかったんじゃないかと、僕は思う。
 だって、どの程度の人数の生徒が信じただろうか?――夜霧が学園内で幽霊を見ただなんて。

 事の起こりは数日前、夜霧が珍しく遅く迄残っていた日だった。日が長くなってきたとは言うものの、辺りは既に暗く冷え込み、夜霧は帰りを急いでいたと言う。
 と、一階迄降りて、ふと廊下の窓からグラウンドを見た時、校舎からの明かりが辛うじて届く薄闇の中に、デッサンの狂った人影を見た!――と彼女は語った。
 その表現に話を聞かされた僕達は一様に首を捻ったものだったけれど、なるほど彼女は美術教師。さらさらと絵に起こした物を見れば、確かにそれは人体としてはバランスがおかしい。詰まりはデッサンが狂っているという訳だ。
 それは妙に背が高く、首は短く殆ど肩に埋没し、頭が辛うじて認識出来る程度だった。そして異様に手足が長かった。
 確かにおかしな風貌だったけれど、それでどうして幽霊という事になるのか、僕はやはり首を傾げた。
「だって、消えたんだもの」と、夜霧は語った。「変質者だったら大変だと思って、よくよく見直そうとしたんだけど、もうその場には居なくて……窓の外をどれだけ見回しても、居なかったんだもの。私に見られた事に気付いて逃げたとしても、速過ぎるわ」
 だから幽霊っていうのも、短絡的じゃないかと思うけど、言って聞いてくれる夜霧じゃあない。
「兎も角、あんなのが居るなんて、黙っていられないわ」と、息巻いていたのだけれど……。
 
 結局無事に終わった放送を受けて、京は胸を撫で下ろしていた。
「休み明けに登校拒否が増えたらどうするんだ」と。
 いやいや、あんな目撃証言位で登校拒否する奴、居ないって――内心でツッコミを入れつつ、僕はこっそりと栗栖に話し掛けた。
「あれ、本当は何だったんだと思う?」栗栖も例の話は聞かされていたのだ。
「夜霧の見間違いやと思うで?」くすくす笑いながら、栗栖は言った。「この季節のグラウンドは部活も休みに入ってもうて、いつも以上に暗いからなぁ。不気味や思うてたら木の影でもお化けに見えるもんやろう?」
「けど、直ぐ消えたって言うのは?」夜霧を弁護する訳じゃないけど、僕はそう問うた。
「夜霧は影を見て幽霊やと思い込んで、あのデッサン狂った影を捜したんやろ? はっきりと見直してみたらそうは見えんもんが目の前にあったとしても、それをその影の正体とは思わんかったんかも知れへんな。思い込み激しいから。廊下の窓からはグラウンド外周に植えられた木が見えるし」
「そんなもんかなぁ?」流石に僕は首を傾げた。確かに夜霧は思い込み激しいけど、一旦幽霊だと思い込んだからって、目の前にあるものが認識出来ないなんて……。
 もしそんな事があるとしたら……?
 はっとして顔を上げた僕に、栗栖はすっかりお見通しといった様子で指を一本、口の前に立てた。
 黙っとき、と。

 夜霧が本当に告白すべき事は幽霊の目撃談なんかじゃないのかも知れない。
 美術教師として特に必要な、視力に何らかの異常を来たしていたとしたら……?
 思わず不安が顔に出たのだろう。栗栖が苦笑して言った。
「大丈夫や。幽霊や単純な見間違いやない事に夜霧も気付いてる。せやなかったら今日の放送で騒いでる所やろう。それでいてその問題の事も言わへんかったんやから、検査なり治療なり、目処は付いてる筈や。後は休み中にこっそり治して……。あれでも気ぃ遣うてんのかも知れへんな。心配掛けまい思うて」
 せやから、見間違いやったいう事にしとこ、と栗栖は言った。夜霧本人が言わないのだからと。
 僕はそっと頷いた。

 因みに後日談として、休み明けの夜霧がどれだけ重い症状だったか――誇張三割り増し位はされていたんじゃないかと僕等は思っている――自分が如何に生徒に気を遣っていたか、吹聴しまくっていたけれど……。
 ま、無事なら世は事もなし。

                      ―了―
 皆様、目は大事にしましょうね~(←先ず自分に言え)

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 教師である夜霧は兎も角、亀池は栗栖と進学について何を話していたんだろう――?
 亀池と言えば同室の桃山と喧嘩騒ぎ――偽装だったけど――を起こして寮内で他の生徒の部屋を泊まり歩いてみたり、部屋の窓が開いていたと言っては騒いでみたり――こっちはまぁ、仕組まれたものだったんだけど――何かとお騒がせ、かつ臆病な生徒だった。
 その彼が自棄に熱心に栗栖と話していたのを見掛けて、僕は首を傾げたのだった。
 大体、うちの学園はエスカレーター式。余程成績や素行に問題がなければ、進学で悩む事はない筈だ。

「特に成績が悪いとは聞いてないがなぁ」僕と同じ様に首を捻ったのは我が双子の兄、京だった。
 と言うか、何で人の成績の良し悪し迄把握してるんだ、京。
「寮内で特に成績に問題のある生徒が居れば、勉強会を開くんだが、亀池を誘った事はないからな」
 寮の纏め役とは言え、職権濫用気味じゃないのか? 兄貴よ。
「寮で勉強会迄しなくても……」僕は流石に苦笑する。
「何を言う」極めて真面目な顔で京は言った。「そもそも自発的に勉強する奴は放っといてもそれなりの成績を出すだろう。だが、成績の悪い奴は放って置いたら先ず、自発的に勉強なんぞ、せん。なら、態々やる切っ掛けを作るしかないだろうが」
 果たして京の勉強会がその切っ掛けになるのかどうか――取り敢えず、参加して成績を落とした者は居ないらしいけれど。ま、参加させられたら、やるしかないもんなぁ。気の毒に……。

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プロフィール
HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
 お気軽に感想orツッコミ下さると嬉しいです。
 勿論、荒らしはダメですよー?
 それと当方と関連性の無い商売目的のコメント等は、削除対象とさせて頂きます。

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