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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 同行者の休憩中、辺りの草を相手に遊んでいた小さな黒猫は、ふと、その動きを止め、一点に視線を定めた。小さな頭の上の三角の耳が、ぴくぴくと動いては向きを変える。
「何か聞こえるのか? 白陽」黒髪に黒い目、黒い着物の青年が声を掛けるが、猫はじっと、その場を動かない。動くのはその耳と、尻尾だけだ。
 しかし青年にしても戯れに訊いただけの事。
 都と郊外を結ぶ街道。その整備された道と、道標の石の塚が点々と立つ以外は人の気配を感じさせない森の中。それだけに猫の興味を惹きそうな鳥の声、小動物の立てる音は、人の耳に捉えられないものを含めて、満ち満ちているだろう。追い掛けて行ってしまっては探すのに困るが、傍に佇むには問題ない。
 只、もし問題があるとすれば、それが危険な動物の立てる音だった場合だが――熊等の気配がない事は彼、至遠が確認している。そうでなければこんな所でのんびりと休憩などしていない。
 それにしても熱心に聞いているものだ――と、その黒い耳がぺたりと頭に伏せられるのを見て、至遠は軽く眉を顰めた。

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 甲高い悲鳴が琳璃(りんり)の脚を止めた。
 未だ幼い、子供の声の様だ――そう判断する間にも、彼女の脚は再び動き出していた。その声の聞こえた方へと向かって。
 都から数十里離れた貧しい町。主に視察を命じられでもしなければ、先ず来ないだろう、寂れた町。
 現に住人達は子供の悲鳴にも、またかと言いたげな視線を僅かに動かしただけで、彼女の様に駆け出した者は皆無だった。そんな気力も、関心も枯れ果てた、そんな様子だった。それに、珍しい事でもない、と。
 狭い路地の奥、粗末な小屋から子供が駆け出して来るのが見えた。四つ、五つばかりだろうか。継ぎの当たった着物に手入れの悪い髪。女の子だというのが辛うじて判る。
 その後ろから刃毀れのした刃物を手にした男が小屋の薄い戸を壊しながら現れた。刃物は既に、血に濡れていた。
 幸い女の子が怪我をしている様子は無い。今の所は――琳璃はそう見て取ると、更に脚を速めた。
 瞬時、女の子と擦れ違い男との間を詰めると、標的を変えて振り下ろされる刃物を持つ手を、狙い違わず手刀で払う。それで体勢を崩した男は、いやそもそも彼は琳璃にとって脅威ではなく、思わず手放した刃物を目で追う内にもその顎を蹴り上げられてその意識ごと、沈黙した。
 そうして琳璃が女の子を保護したのが一日前の事だった。

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 その石を割ってしまったのは、ほんの腹立ち紛れだった。既に風化していた所為かも知れないが、杖で殴った位で割れてしまった事に、男は逆に慌てて何故怒っていたのかを忘れてしまった。そんな位だから、大した理由ではなかった様だ。
 そして周囲を窺うと、誰も居ないのをいい事にそそくさと立ち去った。
 街外れに立っていた、何やら文様の名残りが辛うじて見て取れる、割れた石碑を後にして。

「街外れの石碑が割れてるのが見付かってからなんですよ」宿の女将は久し振りの客相手に訴えた。「この街は都への街道が通っている事もあって、それなりに客の入りは良かったんですよ? それ迄。なのに、あの日からもう十日。その間に無事に来たのはお客さん一人ですよ」
 同じ話をもう何度も聞かされた客は、黒い着物の肩に乗った黒い仔猫の頭を撫でながら、苦笑した。

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 月光に照らされた、雪で作られた小さな祠の中に、小さな黒猫がたった一匹、それでも藁束や布切れに囲まれて、か細い声で鳴いていた。
 祠には急拵えと思われる祭壇、木を削って作ったばかりの何やらの像。僅かずつの五穀。そして仔猫だけ。
 周囲は一面、銀世界。
 人家も遠い、村外れだった。仔猫が連れ来られてから、新雪が降ったか足跡も無く、例え仔猫が迷い出たとしても、人家迄は辿り着けまい。しかし、此処に居ても粗末な寝床を通して、空気の冷たさはじんじんと染みて来る。小さな身体はがたがたと震えていた。
 と、真白な雪に影が差した。それは興味深げに祠の中を見渡し、仔猫を見付けると眉を顰め、ひょいとその小さな首根っこを摘み上げた。小さな黒猫が、みゃあ、と鳴いた。

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「追儺式は速やかに執り行われねばならん」老祭司はしわがれた声でそう言った。
 そうは言っても……と祭司見習い、峰泉(ほうせん)は眉根を寄せる。老司祭は歳を老い過ぎて、とても式を勤められそうにはない。然もここ数日の寒さで体調を崩し、床に伏せっているのだ。
 追儺(ついな)、鬼遣(おにやらい)……この国中の社(やしろ)が参加せねばならない難事だが、この小さな村の社には、彼等二人を置いて他、居ない。峰泉は未だ、とても勤められる力量ではないと言うのに。
 然も此処は都の北東――鬼門。これ以上の要所は無い。
 そしてこれ程守りの薄い社も無い――峰泉は溜め息をついた。雪に染まった白い景色の中、なお白い吐息が散る。
 せめて術者でも居てくれれば足しになろうものを。
 しかし、彼等の背後には村人達が居るのだ。彼等が逃げればこの村を幽鬼から護る盾は無い。及ばずながらもやるしかないかと、峰泉は腹を決めた。

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 夜霧の如き幽鬼で水面が埋め尽くされたと連絡されたし――その一報が入ったのは、怜鵬(れいほう)が流れ者の取調べに頭を悩ませている最中だった。
「埋め……冗談だろう?」期待を込めて言った言葉は直ぐ様、否定された。
 この辺りで水面と言えば、都の南に何里にも亘って広がる湖しかない。この村の生活の基盤でもあり、時に氾濫して多大な被害を及ぼすもの。
 その広大な湖を埋め尽くす程の幽鬼? そんなものは見た事も聞いた事も無かったし、また、見たくも聞きたくもなかった。幾ら殆どの者が霊姿が視えるこの国でも。
 幽鬼と言えば死者の霊であり、恐ろしい姿でこの世の者を惑わすと言う。
「兎に角、此処では対処出来ない。都に救援要請の早馬を! それと村人は絶対に湖に近付けるな!」怜鵬は部下にそう命じ、厄介者に視線を戻して溜め息をついた。「こういう訳だ。とてもあんたの相手迄してはいられないから、放免するよ。面倒だけは起こさずに……あんたもさっさと逃げた方がいい。ええと……至遠(しおん)って言ったっけか」
 澄んだ黒い眼に黒い髪、更には黒い着物の見慣れない男。二十歳になったかならぬかといった歳だろうか。至遠と呼ばれた男は最近この村の付近に流れ着き何をするでもなく古家に居た所を、訝しんだ村人の通報を受けて怜鵬が保護したのだった。

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