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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 町立鹿嶋記念図書館で、長年司書を務める山名さんの様子が、ここ最近おかしい。
 すっかり顔見知りになった職員さんと良介君、その両方からほぼ同時にそんな相談を受けてしまった。
 だからどうして、一利用者の私に言うのかなぁ。
 まぁ、良介君に関しては、私にしか言い様が無いんだから仕方ないけど……。何せ彼の姿が見えるのも声が聞こえるのも私だけという、幽霊なんだから。

「いえ、佐内さん、山名さんとも親しそうですし……」苦笑いしながら、職員さんが言う。「それに……気になるでしょ? あの真面目な山名さんが連絡も無く遅刻したり、無断欠勤するなんて……」
 私の好奇心の強さをよく知っている様だ。侮れない。
「でも、確かに変ですね。あの山名さんが無届の遅刻や欠勤なんて。そういったルーズな態度には一番厳しそうですけど」
「それはもう、厳しいですよ。普段穏やかな感じですけど、そういった処はきっちりしてますから」
「理由は訊いてみたんですか?」
「それが……またおかしいんですよ。そりゃ、身体の具合が悪くて連絡が遅くなった、とかいう事なら解りますし、心配こそすれ不審には思いませんよ。けど、気が付いたら出勤時刻を過ぎていた、とか言われたら……ねぇ?」途惑った顔で、彼は私を見た。
 尤も、私だって同じ様な視線を返すしかなかったんだけど。

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 うちに遊びに来た良介君が朝な夕なに挨拶する、私には見えない相手――この間からずっと気になっていたそれを、無視するべきかと悩んだ挙げ句、これからずっと無視出来る自信も無く、毒食らわば皿までとばかりに、私は質す事にした。
 こんばんは、と言う良介君の声を聞いてから、意味は無いかも知れないけどオートロックの扉を抜けて、私は玄関をちょっと振り返って口を開いた。
「良介君、前から訊きたかったんだけど……」勿論、私一人しか映ってないだろう防犯カメラの向きには気を付けている。「朝とか今みたいに挨拶してる相手……誰?」
 良介君はきょとんとした表情を見せた。こうしていると全く普通の子供の様だ。幽霊だけど。
「あれ? すばるお姉ちゃん、見えてなかったんだ」
 やっぱり何か、見える相手を選ぶものが居るんだ――私は肩を落とした。

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 デスクの上に本の壁が出来ていた。と言ってもそれは私のじゃない。町立鹿嶋記念図書館内の、山名さんのデスクだ。よく見ると、その周りの運搬用の低い書架にも積まれている。
 そして、その本に囲まれて山名さんが疲れた目頭を揉んでいた。
「あれが、この間言ってた出張のお土産?」私は傍らに寄って来た良介君の気配に、小声で訊いた。
「うん」良介君も――別に声を潜めなくても私以外には聞こえないんだけど――小声で頷く。「今回はまた多いなぁ」
 個人からの寄贈品らしいけど、如何にも古そうな本から未だ新しい本迄様々だ。背表紙をざっと見た所、ジャンルも色々。前の持ち主はどんな人だったんだろう。
「それで? 何か憑いてる?」私は冗談交じりに訊く。古本には色々憑いている事が――比較的だけど――多い。そう、良介君は言っていた。
 自分もある意味この図書館に居付いてる幽霊なんだけどね。この子。

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 がばっ! 一瞬、何処で寝ていたのか解らなくなって跳ね起きる。
 ここ数日、毎朝の事だ。
 それと言うのも、一人暮らしのマンションだと言うのに、目覚まし時計が鳴り出したと同時に「おはよう! すばるお姉ちゃん!」と言う男の子の声で起こされるからだ。
 元々は町立鹿嶋記念図書館に繋ぎ止められていた、創立者の息子でもある鹿嶋良介君――の幽霊。どこぞの中途半端な霊媒師が祓う心算で解き放ってくれた為、今や、旧知の場所や、私を通じて行った場所には瞬時に移動出来るらしい。
 だからって幽霊のモーニング・コールって……。
 お陰で寝過ごす心配は無くなったけどさ。
「どうかした?」私がベッドで胡坐をかいていると、屈託の無い表情で訊いてくる。七歳という年齢で亡くなったその儘の姿。どういう訳か私にしか見えないらしく、それだけにやっとまともに話が出来る相手を見付けて、嬉しいらしい。
「なぁんでもない」私は頭を振って、一人分の朝食を作る為に、キッチンに立った。幾らこうしてはっきり見えてはいても、食事を一緒にって訳には行かないのよね。

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 寒い、寒い――私は身を竦めながら図書館からの帰り道を急いでいた。
 昨日迄に積もった雪が溶けた歩道は、アスファルトだと言うのに泥濘の様で、歩き難い。足を取られない様に注意しながら、私は霙(みぞれ)混じりの雨に本を濡らさないよう、バッグをぎゅっと抱き締めた。
 中には、数冊の私好みの本と、一冊の童話本が入っていた。

 先日の自称霊媒師の騒ぎの所為か、町立鹿嶋記念図書館に棲み付いている幽霊、鹿嶋良介君は――何処へでもという訳じゃあないそうだけど――外出も可能になってしまったらしい。幽霊とは言っても享年七歳の子供。さぞ自由になって喜んでいるだろうと思いきや……。
 実はこの処、良介君の元気が無い。
 いや、元気な幽霊っていうのもおかしいんだけど。
 それで今日、つい気になって私は尋ねた――どうかしたのか、と。

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 入った途端、何か違和感を感じた。
 しかし見回す限り、図書館はいつもと同じ、古くも落ち着いた佇まいで、来館者を迎えてくれていたし、職員さん達も……あれ?
 この町立鹿嶋記念図書館一の古株司書、山名さんの姿が無い。
 そしていつも私が扉を潜る度に迎えてくれていた、私にしか聞こえない声が、今日は無かった。

「お風邪を召されたんですか? 山名さん」すっかり顔見知りになった職員さんに、私はそう訊き返した。「大丈夫ですか?」
 山名さんはもう五十代位だろうか、いつも落ち着いた雰囲気のおじ様だ。でもちょっと油断出来ないかも――と思う時がある。とは言え五十代ともなると、身体にも負荷が掛かり易い訳で、少し、心配だ。
 まぁ、職員さんによれば、大事をとって、という事らしいけれど。
 ともあれ山名さんの事は判った訳だけど……今日、鬼の筈の良介君はどうしたんだろう?

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 今日も閉館のアナウンスに椅子を引く音が重なる時間が来た。
 私も書架に戻す本と、借り出す本を纏めながら、席を立つ。書見台の下で良介君が詰まらなさそうな顔をしている。また明日来るから、と囁くと、私は戻す本を抱えて書架の森に立ち入った。
 元あった場所に戻す内、私は書架に置かれた一体の小さな人形に気が付いた。
 本で埋まった書架に人形など置く程の余裕は無かったし、本を選ぶ時にも、こんな物は見掛けなかった。
 手作りらしい、布の人形。赤毛の女の子の姿を象った、胴も手足も細長い人形。黒いボタンの目が冷たく照明を反射していた。
「忘れ物かしら?」私は近くを見回したが、こんな人形で遊びそうな子供の姿は無い。仕方ない、カウンターに預けるとしよう。
 私は借り出す本と一緒に、それをカウンターに持って行った。

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