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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「おい、この夜霧どうにかならないのか?」
「無茶苦茶な事言うなよ」

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「ええっ? 本当に覚えてないの? この小夜お姉ちゃんの事」
 三年振りに会った従姉だという少女にそう言われ、啓太は途惑いがちに頷いた。
 親戚同士が集まったこの日、以前にお年玉をくれた伯父や伯母、遊んでくれた従兄弟達の顔はそれとなく覚えているのだが……目の前の少女の顔だけは、記憶になかったのだ。
「酷いなぁ。三年前のお正月、御節に飽きたってごねる啓太君にホットケーキ作ってあげたじゃない。覚えてないの?」苦笑しながら、その女性――父方の伯父の娘で、小夜と名乗った――は言い、啓太の頭をわしわし撫でる。「薄情者ぉ」
「ごめんなさい」取り敢えず、謝る啓太。
「まぁ、いいわ。あの頃は六歳だったっけ? 啓太君。大きくなったわねぇ。私が年取る筈だわ」そう笑うが、彼女も未だ中学に上がる前だと言う。

 という事は三年前当時は八、九歳か――啓太は知り合いのお姉さんの顔をつらつら思い出してみるが、やはりその中に彼女と思しき顔はなかった。しかし確かに、駄々を捏ねて、誰かにホットケーキを作って貰った覚えはあるのだ。それが美味しかったか、そして作ってくれたのが誰だったのかがまた、思い出せないのだが。
 自分は薄情なのだろうか、と啓太は唸る。幼い頃の事とは言え、多分迷惑を掛けただろうに、覚えていないなんて。
 どうにか思い出そうと首を捻っていると、小夜は冷たい手で啓太の頬を両側から挟んで彼の目を正面から捉えて、言った。
「無理に思い出さなくていいのよ、啓太君。寧ろ、思い出しちゃ駄目」
 じっ……と、瞬きさえも止めて、彼女は啓太の目を見詰める。
 どこか異様な色を帯びたその目に、啓太はたじろいだ。そして、以前にもこの目を見た様な気がする、と思った。だとすればやはり彼女とは会った事があるのか。そして今の様に見詰められていた……?
 しかしもう少しで思い出そうかという時、彼女はふっと啓太から手を放した。視線が、逸れる。
「思い出さない方がいいのよ」そう、呟く様に言って、彼女は離れて行った。

 夜になって、夕食を終えると大人達は思い出話に花を咲かせながら酒を飲み始めた。
 子供は寝る時間だぞ、と伯父の一人が笑いながら言ったが、小学生の啓太を除き、他の従兄弟達は未だ未だ寝る心算はない様だったし、父達も黙認する様だった。仕方なく、就寝の挨拶をして、啓太は宛がわれた部屋に引き取った。
「今年は平和な正月だなぁ」伯父の、そんな言葉を背にしながら。

 今年は平和、という事は平和じゃないお正月もあったんだろうか――湯たんぽで温められた布団に潜りながら、啓太は考えた。寝ろと言われて寝られるものでもない。
 此処に来るのは三年振り、そしてその時には何もなかった筈だが……何も、なかった? 本当に?
 昼間の、小夜の目がちらついて眠れない。
 思い出さない方がいい? 何を?
「僕は何を……? 僕の記憶の中に何が……?」我知らず、啓太は呟いていた。
 思い出しちゃ駄目――小夜の声が耳に蘇る。
 彼女は何かを隠しているのだろうか。そしてそれを、啓太は知ってしまったのだろうか。だからこそ啓太は――忘れたのだろうか? 彼女に関する全てを。
 しかし一体何を……?――考える内、啓太は眠りに就いていた。

 そして翌日、思い出した。
 昨夜、寝室に行くよう言われた子供は自分一人だった事を。小学生――中学に上がる前だと言っていた、小夜は? 彼女はいつの間にか、居なくなっていたのだ。
 彼女の父に当たる伯父は居た。伯母も。
 訝しく思って、啓太は母に尋ねた。小夜は何処に行ったのかと。
「啓太……」困り顔で、母は言った。「あんた……思い出したの? 小夜ちゃんの事」
「思い出せないんだ。だから聞きたいんだよ」
「……小夜ちゃんは三年前に、あんたにホットケーキを作るんだって言って、コンロを使っていて……」
 焦げ臭い臭いを、嗅いだ様な気がした。それは幻だったのか、記憶から生じたものだったのか。
 だが、それが判然とする前に、不意に傍らの電話が鳴り、啓太は母と共に飛び上がってしまった。
 その驚き様が気恥ずかしかったか、微苦笑しながら、母は話を中断して受話器を取った。だが、直に不審気に眉を顰める。
「おかしいわね。何も言わないわ。悪戯電話かしら?」そう言いながら、彼女は受話器を置いた。
 しかし、離れていたにも拘らず、啓太の耳にははっきりと、声が残っていた。
「思い出しちゃ駄目」と言う、小夜の声が。

                      ―了―
 


 寒い寒い☆

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 降り積もった雪の中にぽつり、石のお地蔵様が立っていた。
 祠も何も無い、只の道端。辺りは雪に覆われていて、他に目に付くものは無い。
 家を出て、特にあてもなく歩いていた忠良ただよしは、自然とそちらへと向かった。手はかじかんでいたし、足元からは冷気が這い上がってくる。どれだけきつくコートを身体に巻き付けても、寒さから逃れる事は出来なかった。
 小学二年生の、小さな身には厳し過ぎる寒さだった。
 なのに家に戻ろうとしないのは、幼い子供なりの意地だろうか。

 忠良は父方の祖父の家に、家族揃って帰省していた――渋々ながら。
 もっと幼い頃は、祖父宅への帰省を楽しみにしていた覚えはある。都内のマンションなどよりずっと広い家、素朴ながらも庭があり、飼い犬のポチとは友達だった。正月の頃になると雪に覆われる庭でポチと追いかけっこをするのが、楽しかった。
 だが、小学校に上がり、忠良なりの付き合いや趣味がはっきりと形を成す毎に、帰省は面倒臭く感じられる様になっていた。
 山間部にある祖父宅ではテレビの受信可能局が少ない。ゲームをしていると外で遊べと言われ、寒風の中に誘い出される。小学校の友達はお正月休みに何処そこに旅行したと、自慢気に語りながらお土産を持って来るのに、此処では買って帰る様な土産物も無い。
 ポチだって最近は犬小屋の中で寝てばかりだ。それはもう、歳なのだろうけれど。

 もう来年からは此処には来ないんだ――赤くなった頬を膨らませ、忠良は思った――そうだ、何と言われたって来るもんか。パパ達だけで来ればいいんだ。お正月休みなんて直ぐ終わっちゃうし、その間僕はカップラーメンでも食べてるから、ママが居なくても大丈夫だもん。
 実際にやれと言われたら、かなりの確立で泣き出しそうな事を、しかしきっと出来ると自分に言い聞かせる。道理などない。最早只の意地だ。
 やがて雪を掻き分けながらの鈍い足取りながら、忠良は石の地蔵の前に辿り着いた。
 台座の上に立っている地蔵は忠良より少し、背が高く、彼は上目遣いにその顔を見上げた。
 そして――。
「わっ!」声を上げて、その場に尻餅をついた。
 石地蔵の顔が、犬の顔に見えたのだ。それも生きている犬――ポチの顔に。
 ポチは見た事もない程怒っている様子で、忠良を睨み据えていた。今にも飛び掛らんばかりに――いや、それは実際に忠良に向かって飛び掛かってきた。
 自分が思う以上に動かなくなっていた身体と、纏わり付く雪に逃げる事も叶わぬ儘、忠良はその場に蹲り、意識を失った。

「おい! 忠良! 目ぇ覚ませ! 忠良!」頬をぴしゃぴしゃと叩かれる感触とその声に、忠良は意識を取り戻した。
 うっすら開いた視線の先には父と祖父、そしてポチの姿。
 思わず身を硬くしたが、ポチは穏やかな顔の、いつも通りのポチだった。心配そうに鼻を鳴らしつつ、彼の顔を覗き込んでいる。
「全く……心配したぞ」忠良を抱き上げながら、父が言った。「来年から来ない、なんて癇癪起こしたかと思えば家を出て行っちまって。こんな雪の中、迷子になったらどうする心算だったんだ。ポチが見付けてくれたからいい様なものの」
「ポチが?」巧く動かない口で、何とかそう問う。
「ああ、お前を捜しに出ようとしていたら、いきなり首輪を繋いでる縄を引き千切らんばかりに暴れ出して……もしかしたらと連れて来たら、お前を見付けてくれたという訳だ」
「歳の所為か、此処数箇月、足を引き摺ってて散歩に出るのさえ億劫そうにしてたものだがなぁ」祖父がポチを撫でる。「お前も忠良が心配だったんだなぁ? ポチ」
 返事なのか偶然なのか、ポチが威勢良く、一声吠えた。
 その声に安堵を感じた忠良の意識は、再び、今度は安らかな眠りへと引き寄せられていく。
 と、その前にと視線を回した周囲には、何処にも先程の石地蔵は無かった。
「お父さん、この辺にお地蔵様、無かった? 犬の顔してるの……」
「犬の顔?」父は怪訝な面持ちで訊き返した。「そんなお地蔵様、無いよ。それにこの辺りは――すっかり雪に埋まってはいるけど――畑のど真ん中だ。犬の顔じゃなくても、無いよ」
「おかしいな……」眠りに引き込まれながら、忠良は呟いた。「ポチの顔……してたんだよ、本当に……」

 それはきっと行っちゃいけない所に行かないよう、ポチが止めてくれてたんだよ――祖父の声が優しく響いた。お地蔵さんは子供の護りだ。だから、そのお力をお借りしたのかも知れないなぁ。

 結局翌年も、忠良は田舎にやって来た。
 ポチに会いに。

                      ―了―
 


 寒い~(--;)

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「あれ? 陽一君一人?」何やら慌てて部屋を出て行った義兄は、戻って来るなり、きょとんとしてそう言った。
 僕が頷くと首を捻りながらおかしいなぁ、などと呟いている。
「陽一君と一緒に小さな女の子が居たと……。五、六歳位で赤い着物を着た子。てっきり、余り会う機会のないお義母さん方の親戚の子が遊びに来てるんだと、慌てて用意したんだけど」そう言う義兄の手にあるのはお正月名物ポチ袋。そつのない義兄の事だから予備を用意して来ていたのだろう。
「母方に小さな女の子は居ませんよ。でも、折角だし、僕が貰っておきますよ」僕は笑いながらそう言って手を差し出す。
「またまた冗談を」笑いながら義兄はポチ袋をポケットにしまい込んだ。「陽一君にはさっき上げたじゃないか。それに、入社したばかりながら結構稼いでるって、お義母さんが自慢してたよ? これっぽっち要りやしないだろう」
 笑って誤魔化しはしたけれど、実は結構切実に、僕は金銭を欲していた。

 それと言うのも、今日は正月休みでこうして実家に帰省しているけれど、普段の僕は一人暮らし。ところがこの頃やけに部屋の光熱費の請求額が高いのだ。
 買い揃えたテレビやオーディオ、ゲーム類を存分に楽しむ暇もなく、夜も遅く迄働いていると言うのに。検針のメーターがおかしいのかも知れない。一度点検して貰った方が……ああ、でもそれを頼む金さえ惜しいんだ。

 やがて正月休みも終わり、仕事に明け暮れる日常に戻ったある日の朝、僕は大事な書類を部屋に忘れた事に気付き、慌てて取りに戻った。
 そして、見てしまったのだった。
 五、六歳位で赤い着物を着た小さな女の子が、僕の部屋で勝手にテレビを見ているのを。
 ど、どこの子だ?――僕は鍵を掛け忘れていなかった事を再確認しながら、正月に義兄が言っていた事を思い出していた。僕と一緒に居た? 実家でも?
「君、どこの子?」茫然としながらも僕は尋ねた。
 女の子はバツが悪そうな顔をしながらも、堂々と答えた。
「座敷童じゃ」と。
「……座敷童?」僕はぼかんとする他ない。「座敷童って、あの住み着くと家が栄えるってあれ?」
「そうじゃ」自信満々に頷く、自称座敷童。
「嘘つけ! じゃあ何で僕が金欠なんだよ? さてはお前がこうして留守中に勝手にテレビ見たり、ゲームしたりしてるんだな!?」
「それは……つい」ふい、と目を逸らす座敷童。何がつい、だ。
「これじゃ栄えるどころか家計が傾くじゃないか!」
 僕が思わず吠えると、しかし座敷童はにこりと笑ってこう言った。
「安心せい。我が居るからには仕事には困らん。この御時世、稼ぎのいい仕事があるだけでも幸運よのう」
 僕は……それを否定もし切れず、「さ、働け」と笑う座敷童に見送られて出社したのだった。

                      ―了―

 夜中に携帯で何書いてんだ、私(^_^;)

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「本当にいいの?」心配そうに尋ねる母の声に、私は深く、頷いた。未だ迷いがちな自分に、きっぱりと決断を促す様に、深く。
「いいの。やっと、決めたんだから」出来るだけ、笑顔を作って見せる。「だって、これを渡さないと、いつ迄も付回されるのよ? お祖父様の遺産が隠されているだの何だのって……。あの伯父達に付き纏われる位なら、手放した方が気が楽だわ」
「それはそうだけれど……」母は顔を曇らせた。「あるのかどうかも解らない遺産は兎も角、このぬいぐるみは貴女がお祖父様から頂いた只一つの物で、一番の宝物だったじゃないの」
「それは、私だって渡したくはないわ。あの伯父達に渡したら、隠し場所を捜して、直ぐにでも切り刻まれてしまうかも知れない……。勿論、そんなの嫌よ! でも……お父さんも亡くなった今、自分達の身は自分達で守らなくちゃ……」
 些か古び、所々ほつれも目立つ、クマのぬいぐるみを、私は最後にぎゅっと、抱き締めた。
 向こうの車では伯父達が待っている。
 三箇月前、祖父の面倒を最期迄見届けた私達親子を屋敷から追い出し、その癖、祖父の隠し財産を託されているだろうと勝手に私達を付け回し、祖父の形見であるぬいぐるみを奪おうとしている伯父達が。
 せめて父が生きていたならば、未だ逃げ果せたかも知れないけれど……父は一箇月前に亡くなった。車のブレーキオイルが漏れていたと言うけれど、その車は車検を受けたばかりだった。
 事故なのか、誰かが仕組んだものなのか、その確証は無い。私の中で伯父達が黒であっても、証拠が無ければ世間的にはグレー、法律上では白でしかない。
 私は溜息を一つついて、もう一度母に頷いて見せると、伯父達の車に歩み寄った。

「伯父さん、これ、どうぞ調べてみて下さい」運転席のウインドウ越しに、私はぬいぐるみを差し出した。
「おお、大事に調べさせて貰うよ、綾菜ちゃん」伯父は嘘臭い笑みを浮かべて、それを受け取った。「しかし、かなりお気に入りだったんだねぇ。いつも一緒に遊んでいたのか、こんなにほつれて……。何なら、代わりに今度新しいのを買ってあげようか?」
「いいえ」私は微苦笑を浮かべて、頭を振った。「その子の代わりは無いから。じゃ……さようなら、伯父さん、伯母さん」
 助手席に座る伯母にも頭を下げ、私は車を離れた。
 思わず、早足になる。いっそ、駆け出してしまいたかった。
 これでもう、あの子ともさようなら、なんだ。
 それでも怪しまれないようにとどうにか堪え、私は母の元に戻った。振り返りもせず、母を伴ってその場を離れる。
 早く、早く……この場から去ってしまいたい。伯父達の傍には居たくない。

 だって、一旦腹を開いたあの子の中には、ネットで作り方を調べて作った、小型の時限爆弾が仕掛けてあるのだもの。
 数分後、私達の背後で起こった爆発音は、想像していたよりも大きく、上がった炎は激しかった。
「……」私はやっと振り返り、涙した。
 腹を開いた私には解る。あのぬいぐるみには何も隠されてなどいなかった。
 伯父達は自らの妄想で私達から父を奪い、私達を付け回して祖父の形見のぬいぐるみを奪い、そして、自らをも滅ぼす結果となったのだった。
 これで気は済んだ、と私は母に強く頷くと、交番の赤色灯を目指した。

                      ―了―


 ねーむーいー☆

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「道が二手に分かれています。右と左、どちらに進みますか?」
 そう問われて、僕は暫し迷った挙句に左、と答えた。
 特に理由があった訳じゃない。だってこれは友達が作ったゲームだから。
 親が大まかな筋立てを決めて、メンバー数人のそれぞれが特異なスキルを持った配役を決め、時にはメンバー同士で相談したり、サイコロに運を託したりしつつ進めていくゲーム。僕達は時折集まってはそれに興じていた。
 今回は僕の幼馴染でもある友也が親だった。友也の書くシナリオはファンタジー色が強く、仕掛けるトラップも余り悲惨な結果を招くものじゃない。他のメンバーもその傾向は解っているから今回のパーティーのリーダーである僕に一任だ。
 それに、未だ未だ序盤で特に手掛かりもなく、森の中の道を歩いていて分かれ道に遭遇したら、取り敢えずどちらかに進んでみるしかないだろう。軽いトラップ程度なら、掛かってみるのも一興だ。

「左だね」そう確認しながら、シナリオを書き留めてあるのだろうノートを捲る友也。「じゃあ……竜が現れました……?」
 いきなりかよ、という声がメンバーから漏れる。序盤で出て来るモンスターじゃないだろう。
 僕はそれよりも、彼の自信なさげな読み上げ方が気になった。何で語尾が半音上がるんだよ?
「ち、ちょっと待って」彼は再びノートを捲り、幾度も検めている。分岐を間違えたのか?――このゲームではメンバーの選択によって幾つも分岐先を用意しておく必要があるのだ。
 しかしどうやら分岐に間違いはなかったらしく、彼は首を捻っている。
「どうしたんだ? トモ」隣に座っていた僕はこっそりと訊いた。
「いや、作った時はここでドラゴンが出るなんて書いてなかったんだけど……」ネタバレになるので彼もこっそりと返す。「昨日確認した時もちゃんとなってたし……。おかしいなぁ」
「誰かが悪戯で書き直したんじゃないか?」
「それにしては……確かに僕の字だと思うんだけど……」
 やっぱりこっそり覗き見ると、確かに癖のある友也の字で「竜出現!」と書かれていた。
「寝ぼけて書いたんじゃないか?」僕は苦笑する。時々設定が矛盾するなんてのはまま、ある事。それも承知の上でメンバーも協力して辻褄を合わせる事もある。そんな自由さもこのゲームの楽しい所だった。勿論、それに甘え過ぎていい加減なシナリオばかり書いてくるのは論外だけれど。そんな奴はいずれメンバーから疎外されてしまう。「兎に角、それで進めてみようか」
 友也は頷いて、シナリオの先を読み始めた。

「竜は君達を見ると、襲い掛かって来ました」
 また、いきなりかよ、の声。
 更に竜は先攻を取り、友也がサイコロで決めたその行動は「全体攻撃」だった。結果はいきなりの大ダメージで全員瀕死。それはそうだ。序盤の低レベルメンバーで勝てるモンスターじゃないって。
 それでも何かしらの救済措置があるのかと、メンバーは天を仰ぎつつも友也が続きを読むのを待った。時には負ける事で進むシナリオもあるのだ。
 しかし、友也は再びノートをあちこちと捲り、ややあって茫然と、こう告げた。
「パーティーは全滅しました」

「何だよ、それ!?」途端に抗議の声が上がった。
 無理もない。こんな序盤でいきなり全滅に繋がる選択があるなんて。然も全くそれを匂わせる情報も無かったのだから、メンバーが怒るのも当然だ。電子ゲームならコントローラーなり本体なりを投げてる所だ。
 友也は困惑した顔で更にノートを検め、結局それを僕達の前に差し出した。シナリオに書いてある通りなのだ、と。
「でも、この選択肢の先はおかしいんだよ! 書いた覚えが無いんだ!」と、友也は言った。
「けど、お前の字じゃん。誰かが悪戯で真似て書き直したとでも言うのか?」と、メンバーの一人。
「他の所はトモが書いた儘なのか?」と、僕。
「うん……。他は変わってないみたいだ」
「じゃあ……ルールには反するけど、此処は分かれ道からやり直そうか。皆もこれで終わりじゃ納得しないだろう?」
 しっかりしてくれよ、と苦笑いしながらも、皆それぞれの配役の気分を取り戻した。
「では……」改めて、友也は読み直す。「道が二手に分かれています。どちらに進みますか?――って、右だよね」
 頷く僕達を前に、友也は……震える声で続きを読み上げた。
「り、竜が現れました。竜の攻撃――ふ……復讐する……!?」
 何だよそれ!――何人かが声を上げる中、電灯がいきなり消え、部屋は闇に包まれた。
 闇に沈むその直前、僕は思い出していた。
 いつも論理の破綻したシナリオを書いて来たりルールを無視した挙句、仲間外れにされた事を恨みつつ、元々被害妄想の気があった所為もあり、この冬、自ら死を選択した「竜」という同級生の名を。

                      ―了―
 


 TRPGって知ってます?(^^;)

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プロフィール
HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
 お気軽に感想orツッコミ下さると嬉しいです。
 勿論、荒らしはダメですよー?
 それと当方と関連性の無い商売目的のコメント等は、削除対象とさせて頂きます。

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