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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 五月に入って早々の、真夏の様な日差しに、麻紀は麦藁帽子を引っ張り出した。
 見た目的には未だ早いかも知れない。だが、よく晴れた空からは真夏のそれの様に厳しい直射日光が降り注いでいた。首筋にも、汗がじんわりと浮かぶ。彼女は身体感覚を優先させた。
 今日は大事な場所へ行かなければならない。途中で花屋へ寄って――彼女はもう何度か繰り返した道程を、脳裏で再確認する。
 それに、麦藁帽子は彼女のお気に入りだった。
 だから、暑い最中の外出を厭う半面、姿見に移した自分の姿に、心が浮き立つのも感じていた。
 またこの季節がやって来た、と。

 幾らお気に入りでも、流石に冬の間は麦藁帽子を被っての外出は可笑しい。余りに場違いで、恥ずかしい。
 さりとて家の中で身に着ける物でもない。それは尚更滑稽だ。
 だから麻紀は、夏を待っていた。

 でも、これがもっと別の物なら一年中でも身に着けていられたかも知れないのに。本当にあの人、センスがないんだから――そう苦笑いしつつも。
 兎も角、と彼女は麦藁帽子を被って家を出た。
 でも、仕方ないのだろう。真逆これが最初で最後のプレゼントになるなんて、あの人も思ってはいなかったろうから。
 途中買った花束には白いリボン。 彼女の麦藁帽子を飾るものによく似た白いリボンが、初夏の日差しを眩しく、照り返していた。

                      ―了―


 暑いよ~(--;)

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 ゴールデンウィークの数日間会わなかっただけだと言うのに、友人は自棄に様変わりしていた。

「お前、顔色悪いぞ? 大丈夫か?」俺は訊いた。「ハワイに行くって言ってたから、てっきり日に焼けて真っ黒かと思ってたのに、真っ青じゃないか」
 確かに焼けてはいるのだが、それでも尚、顔色の悪さが窺い知れる。
「そ、そうか……?」心なしか、声迄震えている。本当に大丈夫か?「し、室内だから暗く見えるんだろ、きっと」
 日が翳っていても、普通は声は震えない。
「何か変な病気でも拾って来たんじゃないだろうな?」冗談めかして、俺は言った。
「そ、そんな訳ないだろ?」友人は笑う。だが、そこで言葉に詰まられるとこっちとしても困るんだが。空気感染しないだろうな?
「さては遊び疲れたんだな? 羨ましい奴め」期間中、バイト三昧だった――御陰でずっと初夏の日差し降り注ぐ野外に居たにも拘らず、健康的に日焼けするどころじゃなかった――俺は、少し意地悪く言った。「そんで免疫低下した所で、おかしな病気拾ったんだ。そうに違いない」
「び、病気じゃないって……!」奴は少し、ムキになった。「それよりお前こそ、何で此処に居るんだよ!?」
「何でって……」俺は目を丸くした。奴は何を言ってるんだ?
 此処は大学の教室内。普通に授業受けに来たに決まってるじゃないか。
 俺が呆れ顔でそう答えるより早く、奴が口早に喚いた。

「観光地の着ぐるみのバイトで熱中症起こして倒れて、意識不明で……俺、昨日、帰国早々に病院に見舞いに行ったんだぞ!?」

 暫しぽかんとした後、俺は漸く理解した。
 奴の顔色の悪さと声の震えは、居る筈のない俺を恐れての事なのだと。
 どうやら様変わりしていたのは、俺の様だった。取り敢えず、死んではいない様だが……。
 この分では代返は頼めそうにもない――堂々と休める期間は、終わってしまったと言うのに!

                      ―了―


 む。暑いのと休みが無いので変な話になってしまった(--;)
 明日はやっと休みだー♪

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 祖母に買って貰った鯉幟は、未だ空を泳いだ事がなかった。
 
 ――都心のマンション暮らしなのに、こんな大きな物頂いても、建てる場所が無いじゃない。

 小学校に上がったばかりの頃、生まれた時に贈られたというその鯉幟の存在を知った僕がせがむと、母はそう言って、これ見よがしな溜息を漏らした。
 元々、田舎の父の実家での同居を予定していたのを、仕事の都合で急遽都心に出る事になった所為だろうか。確かにその鯉幟はマンションのベランダには少し、大きかった。
 祖母の家の庭なら、今頃悠々と空を泳いでいただろうか――そんな事を思い、口を尖らせつつも、鯉幟の入った箱をクローゼットの奥にしまい込んだものだった。

 ――庭付き一戸建てって言ったって、そんなに広い庭じゃないもの。お隣にも迷惑じゃないかしら。

 高学年に上がった頃、我が家は引っ越した。これで鯉幟も出せるねと言ったら、母はそう言って渋い顔をした。確かにお隣との距離はそんなに離れてはいない。上空で鯉幟が翻ったら、陰になったりするだろうか。
 結局、そこでも、鯉幟が出される事はなかった。

 ――もう来年からは高校生でしょ? 今更鯉幟なんて、可笑しいわよ。

 また仕事の都合で、この春、父の実家に戻る事になった。広い庭のある日本家屋。初夏の日差しを照り返す甍の上空にはきっと、鯉幟が似合う。だが、母はそう言って、頭を振った。
 確かにうちには弟も居ないし、僕の友達の家だって、もう立てるのを止めた所も多い。鯉幟と言えば、子供の居る家が立てるものというイメージがある。十五歳は昔ならば元服、今の成人式を迎える頃だ。
 でも、と今度ばかりは僕は食い下がった。それなら尚更、一度だけでも祖母の鯉幟が泳ぐ所を、この目で見たい、と。今では部屋で寝たきりになっている祖母が、僕の為に用意してくれたものなのだから。
 何故か困った顔をした母は、その日、夕食をとても簡単な物で済ませ、一人、部屋に籠った。夜遅く迄、障子に蹲った影が映っている。どうしたのかと問うても、答えは酷く曖昧だった。

 強硬にせがんだ僕に機嫌を損ねているのだろうか。こんな大きな子供が居るのに鯉幟を立てる事を、そんなに恥じているのだろうか?
 母にそんな思いをさせて迄、鯉幟を立てる必要があるのだろうか、僕には?
 居た堪れず、僕は障子を開け放った。もういいよ、と言う心算で。
 そして思わず息を飲んだ。

 田舎の広い八畳間に、黒、緋、青の錦が広がっていた。
 長い間仕舞い込まれていた所為だろう、日に焼ける事もなく、鮮やかに。
 只――所々にある傷は? 決して虫食いとも思われない、鋭利な傷が、その鱗を切り裂いていた。
「これ……は……?」僕は茫然と呟いた。「母さん……?」
「ごめん……ね」深い溜息と共に母は言った。「私がやったの」
 母の指が、傷を撫でる。だが、その傷はもう、針と糸によって塞がれていた。今夜、部屋に籠った母は、ずっと自らが刻んだ傷を直していたのだろう。
 そしてこの傷が為に、鯉幟を出す事が出来なかった……。
 だが、何故? 何故こんな傷を?

 そう問うた僕が知ったのは、母と祖母が決して僕には見せようとしなかった、嫁と姑の問題。孫を待ち望む祖母の一言一行が、母にはストレスだったと言う。
 それでもどうにか僕という男児を得、これで認められると思ったものの、祖母の目は母を素通りして、孫を見ていた。
 祖母に悪意はなかったのだと思う。だが、結局どこ迄行ってもこの家では自分は異物なのだと、母は心を病んだ。実家を出たのは、仕事以外にもそんな理由もあった様だ。
 それでもいつかは実家に戻らなければならないだろう――悪意のない祖母は離れてからも時折、孫の顔が見たい、遊びに来いと手紙や電話を寄越す。祖父を早くに亡くしている為に、祖母を一人で置くのも限度がある。
 母は、時折祖母から贈られたこの鯉幟を傷付けては、ほんの少し、そういった重圧を軽減させていたのだろう。だが、母が自らの傷を転化する毎に、鯉幟は表に出せない状態になっていった。
 僕が時折せがむ事で、尚更母を悩ませていたのだろう。
 それでも、今度だけはどうにかしようと、こうして……。
 
 ごめんね、と顔を伏せる母に、僕は何も言えず――そっと、針と糸を手に取った。

 翌日、鯉幟は天高く、空を舞った。
 傷は母と僕の二人掛かりで塞いだものの、僕の裁縫の成績は誉められたものではない。だが、これだけ高ければ、荒い縫い目も見えない。
 初めて自分だけの鯉幟を見上げる僕にも、その僕を病床の窓から見詰める祖母にも。
 
 それでも、母の傷はちゃんと見据えて行こうと、僕は五月の風の中、思う。

                      ―了―


 イマイチ暗い……(--;)

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 彼女の不在は判っていた。
 いや、だからこそあの日、彼女が共通の友人と共に暮らす、あのマンションを訪ねたのだ。
 友人とは言いつつも、彼女が決して望んで、そいつと一緒に住んでいるのではないと、知っていたから――何やら昔、色々とあって弱みを握られているらしい。その内容は、私も知らないが。
 実質居候と言っていいそいつに、先ずは遠回しに独立を促す心算だった。尤も、私も一応友人として付き合っているのだから、そいつの性格も知れている――遠回しなどという穏便な手は通用しないという事を。いざとなったら恫喝、あるいは多少の暴力に頼る事になるかも知れない……。私は念の為に、ポケットにナイフを忍ばせた。
 流石にこんな真似は、彼女が居ては出来ないだろう。

 ところがマンションに行ってみると、予め連絡を入れていたにも拘らず、何度チャイムを鳴らしても反応がない。
 私という客が来る前に、ビールでも調達にコンビニへ――そんな気の利く奴ではない。きっと土産でも期待して待っているに違いない。
 しかし、居るのならばインターフォンに出ないのはおかしい。このマンションはオートロック。開けて貰わなくては入れないのだから。
 真逆、不穏な空気を察知して逃げたか? しかし、奴のバイクはちゃんと置き場にある。外に逃げるのなら乗って行かない手はない筈だ。
 携帯電話にも出ない。寝ているのか?
 と、分厚い硝子のドアを前に手を拱いている私を不審に思ったか、管理人室のドアが開いた。
 約束してあったのだが反応がない、もしかしたら具合でも悪いのかも知れない――渡りに船とそう説明して開けて貰う事に成功した。が、これではもう強硬な手段は使えないな、と内心苦笑する。この後、彼女達の部屋で事件でもあれば、管理人は私の人相を事細かに説明するだろう。

 部屋迄二人で行き、もう一度チャイムを鳴らしてみたが、やはり反応はない。私は管理人と顔を見合わせ、管理人は頷いてマスターキーを取り出した。
 暗い廊下の向こう、リビングには灯が点っていた。そちらへと呼び掛け、それでも反応がないのを確認して、私達は靴を脱いだ。二人でそろそろと、短い廊下を進む。
 奴の名を呼びながらリビングを覗き込んだ私は、一目見て「あっ!」と声を上げてしまった。
 続いて、一拍遅れて入って来た管理人が、情けない悲鳴を上げる。
 皓々と灯の点いたリビングの真ん中で、奴が倒れていた。血痕も無い、暴力の痕も無い――だが、奴の顔に張り付いた苦悶と恐怖は、それが自然な死ではない事を物語っていた。

 何より――後から入って来た管理人には私の背が邪魔になって見えなかった様だが――私は見てしまったのだ。
 蒼白い顔をした彼女が……決してこの場に居る筈のない彼女の幽姿が奴の傍らに立ち竦み、私の声に反応するかの様にほんの一瞬こちらを見て、霧の様に掻き消えてしまったのを。
 
 結局、救急車が呼ばれたものの、奴の不審死は心臓麻痺で片付けられそうだった。外傷も無く、毒物も検出されなかった――例え彼女の生霊がどんな力を行使したとしても、それを証明する事は出来ないのだから。
 翌日、私は使う必要のなくなったナイフをそっと処分し、代わりに花束を持って、彼女の元を訪れた。
 もう安心して帰れるよ、と囁く。
 先日、睡眠薬の過量摂取で運び込まれた儘、病室で眠り続ける彼女に。

                       ―了―


 春眠暁……ぐー(--)zzz

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 嫌いなものを描きなさい――そう言って画用紙を渡された子供達は、思い思いに自らの苦手とするものを描き始めた。

 虫、蛇、蛙……ピーマン、玉葱、グリーンピース……注射器、三叉の槍を持ったキャラクター化された虫歯菌……その他諸々。一枚の画用紙に幾つも幾つも描いている子供も居る。
 それにしても、普通は好きなものを描けと言うんじゃないのかな?――今は図工の時間中。担任教師の不審な言葉に、何人かが首を傾げていた――好きな人を描け、とか。
 まぁ、いい。好きな人だと、母親とか先生とか、子供なりに気を遣うが、嫌いなものなら思い付く儘を描けばいいのだから。
 隣を覗き込んではからかう者や、題材はどうであれ絵の出来栄えに拘る者、一つの教室の中、様々な思いが画用紙に描かれて行く。

 やがて時間の終了間際、回収された絵を眺めて、教師は言った。
「どうして皆、自分の顔を描いてるの?」
 一瞬の間があって、次々に手と声が上がった。
「違うよ、私が描いたのはそこの子供っぽい二十八番!」
「私も違う。あっちの妙に理屈っぽい三番の子」
「その……十二番です。いつも意地悪で……」
「三十番! 暗いんだもの!」
「先生、しっかり見てよ。頭の悪そうな顔、ちゃんと描けてるでしょう?」
 次々に上がる声に、教師は重い溜息をついた。予想はしていた事ではあるが……。
「はいはい、よく描けてるわ。それぞれ――同じ遺伝子を持った、他人の顔がね」

 クローンは果たして同一人物となり得るか否か――馬鹿げた実験をしたものだと、教師は上役の正気を疑った。然も、違法ではないか。
 一卵性双生児がそうである様に、同じ遺伝子という設計図を基にしようと、育てられた環境でその性格や学習に於ける習熟度は変わってくるのだ。
 只、共通するのは、同じ姿をした他人への競争意識と……その嫌な面が自分にも何処かしら備わっているのではないかという嫌悪感のみ。
 究極の同族嫌悪かも知れない。
 だからかしら?――教師は溜息をついた――幼い頃の自分そっくりのこの子達が、決して好きにはなれない……。
 母でもない、姉でもない、同一の遺伝子を持った彼女は、数十人の自分という鏡を、今日も見続けている。

 今、嫌いなものを書けという課題で彼女が描くのは、紛れもなく自分の顔だった。

                      ―了―


 ねーむーいー。

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 春眠暁を覚えず――それにしてもよく寝るものだと、僕は縁側の猫を見遣った。
 確かに未だ少し冷やりとした空気の中、時折吹き込む春の風は柔らかな布団の様に僕を眠りに誘うけれど……。
 生きてんのか?――殆ど動く事もなく眠り続けている猫に、僕はそっとにじり寄った。
 暖かな日差しを浴びてふかふかの、真っ白な被毛に覆われた腹が、規則正しく上下している。ゆっくりと、ふっくらと。
 薄いピンクの鼻。少しだけ灰色を帯びた毛が、丁度人間なら眉毛の辺りに、ぽつぽつと点を描いている。ちょっと、お公家さんの眉みたいだ。それ以外は真っ白。陽を浴びて、尚輝きを増した、白。
 僕はほっと息をつき、邪魔しないように少し距離を取ると、釣られる様に縁側にのびのびと身体を横たえた。偶にはこんな時間もいい、と。

 休日を利用した、最近少し足腰が弱りつつあると言う祖父母の様子見を兼ねての帰郷。
 幼い頃色んな事を教えてくれた祖父母は、僕がそれらを学習して大きくなった分、年老いていた。確かに足取りも嘗てに比べて弱々しく見える。だが、動作は遅くなってはいても、その足は未だしっかりと地を踏み締めている――夫婦二人、寄り添う様に。
 少し、生きるペースがゆっくりになっただけだと、祖父は笑っていた。
 丸でそのゆったりした時間が、僕にも作用しているかの様だった。
 そして横で眠り続ける、白い猫にも。

 ところで、こいつはどこの猫なんだろう?――僕が知る限り、祖父母は猫を飼ってはいなかった。飼い始めたなら、僕に言わない理由もないだろう。寧ろ、自慢げに紹介してくれる筈だ。
 まぁ、此処は縁側。どこか近所の猫が、暖かな日溜まりに惹かれて上がり込んだのかも知れない。
 こんなにいい天気なんだ。どこの猫だろうと、けちけちする事もない。縁側に猫――いいじゃないか、平和な光景だ。
 そんな事を取り止めもなく考えながら、いつしか僕は本格的に、眠りに就いていた。

 夕方の、少し冷やりとした空気に目を覚ました。どれだけ寝てしまったのだろう。猫の事を言えたものじゃないな、と横を見遣ると、そこにはもう猫の姿は無かった。逸早く、陽の傾きを察して移動したか、何処かへと帰ったか。
 と、僕は自分の腹にタオルケットが掛けられているのに気付いた。きっと、通り掛かった祖母が、冷えないようにと掛けてくれた物だろう。
 タオルケットを返しがてら、礼を言いに行くと、祖母不意に思い出し笑いを浮かべた。
 丸で猫みたいに丸くなって、気持ちよさそうに寝ていたね、と。
 少し恥ずかしくなった僕は、誤魔化す様に先の白猫の話をした。どうやら猫は、祖母が通り掛かった時にはもう居なかったらしい。少し残念そうにしている祖母に、僕は言った。
「あの場所が気持ちいいの知ってるんだから、また来るんじゃないかな。あのお公家さん眉の白猫」
 え、と祖母は目を丸くした。
 そして言った――あの場所は、僕が生まれるよりもずっと前に飼っていた、お公家さんみたいな眉をした白い猫が、よく日向ぼっこをしては眠っていた場所だった、と。

 単によく似た猫だったのだろうか?
 それとも……。
 春の日差しに誘われて、何十年か振りにお気に入りの場所に現れたのだろうか……?
 ゆったりとした、穏やかな時間を懐かしんで。

                      ―了―


 眠い……(--)zzz

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「あらあら、駄目よ、沙耶ちゃん。お人形をそんなに乱暴に扱っちゃ」
「だってお人形は痛がらないもん」やや大きめの抱き人形の髪を掴んで引き摺りながら、沙耶と呼ばれた女の子は言った。
「んん……確かにお人形は『痛い』とは言わないけどねぇ」エプロンを着けた保育士は困り顔にそれでも柔らかな笑みを浮かべた。「沙耶ちゃんだって、髪を引っ張られたら痛いでしょ?」
「先生、お人形には『シンケー』が無いんだよ? だから痛くないんだって、ママが言ってたよ?」意味がどこ迄解っているのか、それでも一丁前に沙耶は言った。
 保育士は尚困った顔になり、言葉を探す。確かに人形に痛みを感じる神経はないし、その刺激を感じ取る脳も無い。そして痛みを訴える声帯も持たない。
 その筈なのだが……。
 どうして自分にだけ、聞こえるのだろう?――保育士は首を捻る――「痛い!」と言う、受け持ちの子供達の誰のものでもない声が。
 沙耶の手に下げられた、人形から……。
 そして、何故自分はそれを普通の事と受け止めているのだろう?
 何より……何故、こんなに沙耶が憎いのだろう……?
 その小さな手から乱暴に人形を奪い取りたい衝動を懸命に抑えつつ、彼女はどうにか言葉で、人形を解放させた。

 その翌日、保育士が一人、失踪した。人形と共に。
 先日手違いで寄付してしまったと、元の人形の持ち主の息子が訪ねて来るのと相前後して。
「あの人形は先日亡くなった母の物だったのですが……決して人には譲らずに、一緒に棺に入れてくれと頼まれていたのに……」悔やむ様に、彼は唸った。「あれは……あれには幼い頃に亡くなった伯母の魂が入っていると、母はよく言っていました」
 結局、保育士と人形の行方は、未だ知れない。

                      ―了―
 うむ。イマイチだ(←おい)

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プロフィール
HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
 お気軽に感想orツッコミ下さると嬉しいです。
 勿論、荒らしはダメですよー?
 それと当方と関連性の無い商売目的のコメント等は、削除対象とさせて頂きます。

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