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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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 立ち入り禁止――そう書かれた看板を無視して、男は申し訳ばかりの鉄製の門扉を乗り越えた。
 手に残ったざらついた感触に、門扉の古さと、此処が放置されてからの年月を感じ、思わずじっと、手を見下ろす。その視線の更に先の運動場も、全く手入れがなされていない所為だろうか、罅割れ、草が生え放題。蔓草に巻き付かれ埋没した、鉄棒や地中から半分だけ顔を出したタイヤ、登り棒……。その雑草の海の向こうに、彼がかつて通った小学校の分校の校舎が、虚ろな姿を残していた。
 木造二階建ての校舎に塗られていた薄い緑のペンキは疾うに剥がれ、壁板さえも朽ち落ちている所もある。窓硝子の殆どが割れているのは、人為的なものなのか、それとも窓枠――ひいては校舎――の歪みに、硝子が耐えられなくなった結果なのか。
 その窓から差し込む初夏の日差しも、どこか気だるげに見える。
 寂しさに思わず顔を歪めながらも、男はその校舎へと、歩き出した。

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『あ、ミワ? 私、私ー』
 受話器を取るなり能天気な迄に明るい声がそう言った。けど、私と同年代の女の子らしい、その声に聞き覚えはない。高校の友達ならそもそも携帯じゃなくて家電になんて、掛けてもこないし。私って誰よ? 真逆とは思うけど、なりすまし詐欺じゃないでしょうね?
「あの、どちら様ですか?」僅かに不審な思いを声に潜ませて、私は質した。確かに私は美和だけど、覚えもない他人にいきなり呼び捨てにされる謂れもない。
 なのに相手はその声にも気付かないのか、やはり明るい声で「私だってば」と繰り返すのみ。ちょっと。馬鹿にしてるの?
「あの、悪戯なら切りますよ?」それでも我慢強く、私はそう言った。最早不機嫌な声音は隠してもいなかったけれど。
 すると相手は束の間、声を途切れさせ……さも不思議そうにこう言った。
『判らないのー? 薄情だなぁ』
 薄情も何も、貴女の声に覚えが無いんですけど――と内心でツッコミを入れつつも、電話を通した事で多少声が変わって聞こえているのかも知れないと、念の為に知り合いの顔と声を脳裏に再生する。
 ……やっぱり違う。
 この妙に軽い口調も、私の覚えにはないものだ。
「あの……誰かと間違ってるんじゃないですか?」
『え? 貴女、ミワでしょう?』
「そうですけど……。済みません、本当にどちら様ですか?」些か気味が悪くなって、私はもう一度、質した。「記憶違いならごめんなさい。幾ら思い出そうとしても、貴女の声に覚えがないんですけど……」
 暫し、沈黙が続いた。

 自らの勘違いに気付いてバツが悪くなったのだろうか。それとも、実は本当に知り合いで、私が思い出せないと知って気を悪くしたのだろうか。
 向こうは少なくとも私の名前を知っていた。けど、それは偶々、私の友達の友達が「美和」という名前を聞いて、小中学校時代の別の「ミワ」と間違えたのかも知れない。転校して行った友達とか。それで懐かしくなって、電話番号を友達に聞いて、連絡を取ろうとした――でも、それなら向こうも私の声に覚えがない筈……。
 沈黙が続くと、見えない電話の向こうを色々想像して不安になってしまう。
 ちょっと、何とか言ってよ。間違ったなら「ごめんなさい」でいいじゃない。
 余程受話器を置いてしまおうかと思ったその時、向こうですぅっと息を吸い込む気配がした。
 思わず受話器を握り直した私の耳に届いたのは、打って変わった重々しい声。
『そうよね。ミワは私の声なんて……言葉なんて、全然聞こうとしなかった。私はいつでもミワの為に、ミワの代わりに宿題をやったり、買い物に行ったり、色々してたのに……。だから覚えてないんだ。そうなんだ』
「ち、ちょっと待ってよ! やっぱり貴女、人違いしてるわ。私、人に宿題やって貰ったりなんてしてない……!」そんな私の抗議を、相手が聞いている様子はなかった。
 私が喋っている間にも、何かぶつぶつと呟いている。そうなんだ……だからなんだ……そんな声が漏れ聞こえてくる。
 ちょっとヤバいんじゃないの?――まともに相手をした事を後悔し始めた私に、不気味な声が染み渡る。
 そうなんだ……だからなんだ……。
『……だから、私が殺したんだったわ』
 不意にはっきりとしたその声に、私の背筋が冷たくなる。何を言ってるの? 咄嗟に意味が解らない。
『なのに、どうしてそこに居るの? ミワ』
 だから人違いよ――そんな言葉も発せられない程、口が、舌が渇いている。
 冗談や悪戯とは思えない。そんな響きを、件の声は持っていた。どれ程演技が上手な人でも、これ程心底不思議に思っている様な声――然も狂気を孕んだ声は出せない。
 耐え切れなくなって、私は受話器を本体に叩き付けた。それでも未だ、声が耳に残っている。汗で滑り、震える手で苦労して受話器をきちんと置き直し、また掛かってくる事を恐れて留守電に切り替えた私は、逃げる様に電話を離れた。

 数日後、留守電に一件の伝言が残されていた。
『あれからよく考えてみたの。ごめんね――殺し切れてなかったんだね。今度こそ、ちゃんとするからね? ミワ』
 
 私は直ぐ様助けを求めて、携帯から通報した。あの声が聞こえた受話器は、もう耳に当てる事も出来ない……。

                      ―了―


 や、別に家電に恨みは無いんですが(^^;)
 何か嫌い(笑)

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「ねえ、そこに居たら危ないよ?」
 そう声を掛けられて、僕は周囲を見回した。場所は夕暮れの橋の上。欄干にもたれてぼけっと川面を眺めていたんだけれど、そんな僕の周りに、人の姿は無かった。
 空耳か?――頭を掻きながらも欄干から身を起こした僕の足元で、ガラガラという異音と、それに続く水音。見れば、古いコンクリート製の橋の一角が崩れ落ち、今さっき迄凭れていた欄干迄が歪んで中空に浮いた様な状態になっている。もし、あの儘凭れていたら……僕はぞっとして、一歩二歩と後ずさった。
 音を聞きつけたのだろう、近所からの野次馬が辿り着く前に、僕はその場を後にしていた。

「ねえ、そこに居たら危ないよ?」
 再びそう声を掛けられたのは繁華街の交差点。やはり見回してみるけれど、周囲の人込みは僕の事など眼中に無いかの様に、只々、流れて行く。
 大体、あの声は子供の様でもあり、女性の様でもあり……そう、やや甲高いというイメージしか残されていなかった。聞こえてきた方向もはっきりとしない。耳の傍だった様でもあり、背後からだった様でもあり……。
 ともあれ、先程の事もあり、僕は反射的にその場から身を退いていた。
 すると――甲高く耳障りなブレーキ音。それにも拘らずスピードを殺し切れずに横滑りし、タイヤの焼ける異臭を漂わせる車。そして、それは先程迄僕が居た歩道に乗り上げて、信号機にぶつかってやっと停止した。周りに居た数人は慌てて逃げ、数人は身が竦んだか、逃げ遅れた。
 もし、あの儘あそこに立っていたら……僕はきっと後者に入っていただろう。
 騒ぎが拡大する中、僕は混雑に紛れ、その場から去った。

「ねえ、そこに居たら危ないよ?」
 三度の声に、僕はぎくりと身体を硬くした。電車を待つ、人気の無いプラットホーム。やはり、声の主らしきものの姿は無い。
 居るのはどこぞで聞こし召して来たか、足元のふらつく中年サラリーマン位。
 僕は嫌な予感がして、電車の到着を知らせるベルの響くホームの端から、一歩退いた。
 やがて何事も無く滑り込んで来た列車に、乗り遅れまいと急ぐサラリーマン――その脚が縺れ、僕が先程迄居た場所に倒れ込んだ。あの儘あの場所に居たら、彼に背中を押される形で僕は列車の前に……。
 ぽつぽつと降りて来た降車客が彼を見下ろす中、僕は改札口へとUターンした。

 すっかり灯の落とされた住宅街をとぼとぼと歩きながら、僕はあの声が何者なのか、何故こうも次々と凶事に遭うのか、つらつらと考えていた。
 取り敢えず危険を警告してくれているのだから、あれは悪いものではないのだろうか? しかし、これ程続け様に事故に遭う――遭い掛けるのも異常だ。それがあの声の所為でないという証拠も無い。
 と――。
「ねえ」
 僕は慌てて周囲を見回した! 
 今迄の事からしても、声の主を目で捉える事は出来ないのかも知れないと思いながらも、見回さずにはいられなかった。それは凶事の前触れであるかも知れなかったから。
 案の定、姿は無い。
 ところが、続いた言葉は違った。
「君、死にたいんじゃなかったの?」どこか、からかいを含んだ様な声音。
「!」僕は愕然として、動きを止めた。
「欄干から下の川を眺め、交差点から走る車の列を眺め、ホームからやがて列車の入る冷たい線路を眺め……そこに飛び込む事を考えていた筈の人が、何故逃げるのかな?」
 ……そうだ、僕は……死を望んで、行く当てもなく街を彷徨っていたのだった。川に飛び込んだら、車の前に、あるいは列車の前に飛び出したら……そんな想像をしつつ……。
 なのに……。
 危険を知らせる声に思わず振り返り、死を望む者には持って来いだったろう状況から、泡を食って逃れた。
 本当に、死を望んでいるのなら……少なくともホームでは、退く事はなかった筈だ。
「僕は……」
「死なんて望んでないんだね?」声が先回りする。「只、安易な逃げ場を探していただけ……」
 はっきりと、言われてしまった。確かにここ数日、嫌な事が続き、僕は落ち込んでどこかに消え去りたいと、そう思っていた――心算だった。
「何なら……招待しようか?」笑いを含んだその声に、僕はきっぱりと頭を振った。
「未だ、本当に死にたくはないみたいだ。誰だか知らないけど……有難う」
 くすくす……とどこか嬉しげに笑う声は、夜の闇に消えて行った。

                      ―了―

 誰でしょうね?(^^;)
 どこかのお節介な死神さんかも(笑)

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「ね、聞いた? 一組の子がこっくりさんやってて……」
「ああ、おかしくなっちゃったんでしょ?」
「そうそう、訳の解らない事口走っちゃって、保健室に隔離されたけど手に負えなくって、病院に連れて行かれたって……」
「でも、本当なの?」
「ホントだって……! 実際その子、今日も来てないし……」

 そんなひそひそ話が耳に刺さる。
 勿論、それらは小声なのだけれど、今の私には――件の一組の彼女と一緒に他愛のない遊びをしていた私には――それは避ける事の出来ない雨の様だった。
 中学二年にもなって、とは思ったけれど、私は小学校時代からの友達の誘いに乗り、他の二人と共に十円玉に指を乗せた。
 最初はなかなか動かなくて、少し退屈してた。動き出した時も、きっと誰かが指に力を入れてるんだと思って、逆らう事無くそれに合わせてた。
 はい――いいえ――それで答えられる簡単な問いが何度か繰り返され、それが何と無く当たっている様な気がしてくると……質問は踏み込んだものになって行った。

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 狭霧さぎりはママが欲しいな。
 妹の夏美も欲しいかな?

 ママが居なくなって何か月かな? 一つ、二つ、指を折って……六つ。
 どうして帰って来なくなったんだろ?
 どうしてパパも何も言わないんだろ?
 どうしてパパが連れて来たおばさんがごはん作ってくれてるんだろ?――狭霧と夏美の好きなものばっかりでうれしいけど、やっぱりママの味とはちがう……。
 

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 花見ってぇのは本来、春先に流行る病を運んで来る疫病えきびょう神を宥め、鎮める為の祀りだったんだってねぇ。今じゃ只の酒飲みの口実と化してるけど。
 陽気に浮かれ騒ぐ事で、陰の気を祓おうって昔の知恵だったのかねぇ。

 そんな事を語る上司に適当に相槌を打ちながら、貴子は早くお開きにならない物かと、内心溜め息をついていた。気の合う友人同士ならば楽しかろうが、今夜は会社主催のお花見。本音は遠慮したい所ではあったが、新入社員の彼女に拒否権があろう筈もない。親交を深める為にも、と引っ張り出されてしまったのだ。
 とは言え大きな会社でもなく、参加しているのは他の部署を含めても二十人そこそこ。巧く口実を作って逃げ出した人も居るのだろうな、と貴子はまた、溜め息。
 公園の桜は散り際を迎え、用意してきたオードブルや酒盃にも、はらはらと薄紅の花弁が舞い落ちる。それはそれで風流なのだが……その下で浮かれ騒ぐ人間達に風雅を求めるのは酷というものだろうか。
 辺りにはやはり同じ様なグループがシートを広げ、縄張りを主張しながらも、嬌声はその枠を簡単に逸脱してくる。カラオケセットなんか持ち込むな、と貴子は舌打ちした。
 顔を朱に染めて上機嫌の上司のグラスに更にビールを継ぎ足しながら、早々に切り上げるいい口実は無いものかと、貴子は思いあぐねる。
 騒音、酒の所為もあってか甲高い調子っ外れの歌声、無礼講とは言われても気を遣わずにはいられない上司の相手、酒臭い息……それらが総出で彼女を憂鬱な気分にしてくれていた。 
 
 と、そんな彼女の顔色を窺って、上司がぽつり、言った。
「上宮? こういうの嫌いか?」
「あ、いえ……」貴子は慌てて愛想笑いを浮かべた。頬の辺りが正直に引き攣ったのが、自分でも解る。
「そうか……」上司はやや残念そうに言った。「まぁ、無理もないな。私だって若い頃はこういう付き合いに何の意味があるんだ? って思いながら、それでも社内での立場を考えて、参加してたからなぁ」
 皆通る道だよなぁ――妙に年寄り臭く、達観した様子でそう言う上司に、貴子は思わずくすりと笑みを漏らした。
「そう、そうやって笑ってなさい」ふと、そう言った上司の声はいやに低く、酒の気が抜けた様だった。
 え?――と貴子が見遣ると、その顔からも好々爺地味た笑みが消えている。
 と、彼は再び相好を崩して、へらへらと笑って言葉を続ける。
「陰の気を祓うべき花見の席で、陰の気を溜め込むのは御法度だよぉ?」
「は、はぁ……」釣られて愛想笑いが貴子の顔に浮かぶ。
「そうそう、笑う角には福来る。面が笑っている内に、心も楽しいって錯覚するもんさ」
 無茶苦茶な理屈だ。だが、その言い種に、貴子は吹き出し、笑い出してしまった。確かにこうして笑っていると、周囲の雑音もさっき程には気にならないから不思議だ。
 彼女の父親位の年代なのに面白い人だ、と上司を見た貴子は、その顔から再び笑みが消えている事にはっとする。
 彼がじっと見詰めるのは照明の灯された花見会場を囲む、外の闇。丸でそこに居る何かを見張るかの様な鋭い視線に、貴子は不安を覚えた。
 が、彼女が見ている事に気付いたか、それとも見張る必要が無くなったのか、ふと頬を緩めて貴子を振り返ると、彼はグラスを差し出して言った。
「陽気に行こう、陽気に――そうすりゃ奴等は寄って来れないから」
 奴等が何なのか、果たして上司にそれが見えていたのか、貴子は訊こうとはしなかった。
 噂をすれば影が差す。
 おぬが訛った言葉が鬼だとも聞く。そんなものに寄って来られては適わない。
 今宵は陰の気を祓う祭りなのだから。

                      ―了―

 や、お花見(酒宴?)シーズンですね(^^;)

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 夜の道を歩くのは気楽なものだ。
 特にこんな田舎道では、人に出合う事も殆ど無い。況してや苦手な子供に会う事なんて、先ず無い。
 その筈だったのだが……。

「ねえねえ、どこ行くの?」さっきからちょこちょこと後ろをついて来る子供に、俺は辟易していた。「日が暮れたらお家に帰らなきゃ駄目なんだよ?」
 その言葉、そっくりその儘お前に返すからさっさと俺から離れろ――そんな目付きで一睨みしたものの、相手にどの程度伝わったかものか。
 それ迄只管無視して歩いていた俺が振り返ったのが嬉しかったのか、尚更親しげに話し掛けてくる始末。
「名前は? どこのうちの子? 僕はお祖母ちゃんの家に遊びに来たんだよ」 
 本当に子供というのは喧しい。声も高くて大きいし、何よりこの質問攻めと、じっと見詰めてくる視線が、どうにも苦手だ。然もそれだけ見ている癖に、こちらが態と作った鬱陶しそうな表情は読み取らない。いや、未だそこ迄の感情が育っていないのかも知れないが。

 兎も角、気楽な筈の夜の散歩の、この小さな連れにうんざりして、俺は道を外れて林に入り、手近な木に駆け上がった。
 そして――その樹の上に小さな亡骸を見付けて流石に息を飲んだ。乾燥して曲がり、絡まった蔓植物に巻かれる様に蹲っている為、直ぐにはそうと解らなかったが。よく見ればその蔓が喉に食い込んでいて、恐らく慣れない木登りの最中に蔓に絡まり、足掻く間に運悪く首を締めてしまったのだろう。
 振り返ると、さっきの子供は消えていた。
 そう言えば――と、俺は二箇月程前のこの静かな町での騒ぎを思い出す。
 どこかの家に里帰りしていた夫婦の一人息子が姿を消し、その捜索が行われたのだ。無論、俺は知った事ではないと、無関心を決め込んでいたが。
 散々山狩りが行なわれた筈だったが、この一見蔓草の塊にしか見えないものを、彼等は見逃していた様だった。
 全く……面倒臭い話だ。
 そう毒づきながらも、俺は蔓に巻かれた子供の亡骸から、靴の片方を失敬した。
 確かあの時、悲嘆に暮れた顔で町の消防団員達に頭を下げていた老婆の家は……此処から程遠くない、一軒家。
 庭に忍び入ってみれば障子に明かりが差している。俺は態と物音を立て、障子が開くのを待った。
「おや、お前はどこの子?」きょとんとした顔で、老婆は俺を見詰めた。
 しかし、その手前にぽとりと落とした小さな靴を見遣ると、見る見るその顔の驚愕の色が広がる。
「これを何処で……! あの子は何処に居るの!?」
 その問いに、俺は身を翻しつつ、老婆がもどかしそうに履物を履くのを待ってやった。
 そうして時折振り返りつつ、ついて来るのを確認し、やがて俺はあの木に再び駆け上がった。暗闇に途惑う老婆に解るように、蔓草の塊からもう一方の靴を、ぽとりと落としてやる。
「ああぁ……!」老婆はそれで悟ったか、狂った様な悲嘆の声を上げた。
 そして彼を降ろす人手を集める為だろう、町の方に駆け戻って行く後ろ姿を見下ろして、俺は一声、声を掛けた。
 にゃあぅ――ちゃんと弔ってやれよ、と。
 俺達猫は兎も角、人間の子供はちゃんと家に帰らなきゃ駄目なんだから。

                      ―了―

 疲れたので短めに!

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プロフィール
HN:
巽(たつみ)
性別:
女性
自己紹介:
 読むのと書くのが趣味のインドア派です(^^)
 お気軽に感想orツッコミ下さると嬉しいです。
 勿論、荒らしはダメですよー?
 それと当方と関連性の無い商売目的のコメント等は、削除対象とさせて頂きます。

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