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〈2007年9月16日開設〉 これ迄の小説等、纏めてみたいかと思います。主にミステリー系です。 尚、文責・著作権は、巽にあります。無断転載等はお断り致します(する程のものも無いですが)。 絵師様が描いて下さった絵に関しましても、著作権はそれぞれの絵師様に帰属します。無断転載は禁止です。
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「何度来ても無駄よ。君の鍵は持ってないもの」腰のベルトに下げた鍵束を一瞥もしない儘のその返答に、少年は自分より一つ、二つ年上と見える少女に食って掛かった。
「だって、ありすだろ!? 鍵の事なら……ありすが持ってなくて誰が持ってるって言うんだよ!」
 茶色い髪によく似合う青いリボン、そして青い服の十歳ばかりと見える少女は肩を竦めた。
「何度も言うけれどね、私が持つのは主に、使われなくなった鍵、使う者の居なくなった鍵、今は必要でない鍵……。必要とする人が居る鍵はその者の手に――それが基本よ」
「じゃあ、どうして僕の手に無いの? 僕はあの鍵が要るのに!」
 少年は家の鍵を失くした。両親は共働きで、少年は所謂鍵っ子だった。
 ところが学校の帰り道、友達とふざけ合っている内に首に下げていた紐が切れ、鍵は道路へと飛んで……。
 それ以来、彼は家に入れずにいるのだと訴えた。

「こう、青い紐が結わえてあって――あ、紐は外れちゃったかも知れないんだけど――兎に角、もう一度確かめてみてよ!」少年は未だ言い募る。
 それに対して少女はくるりと身を翻した。確認などする必要もない、とばかりに。
「あの鍵は、今それを必要としている人の手にあるわ。だから、君には渡せないの」
「だ、誰だよ!? それ!」少年は喚く。
 その甲高い声に煩そうに耳を押さえながら、少女は告げた――家に帰ってみれば解る、と。

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「落としましたよ」
 そんな愛らしい声に振り返った男は、その場に凍り付いた。
 見覚えのある鍵。見覚えのある無機質なキーホルダー。そして見覚えのある少女――栗色の髪に青いリボン、青い服のよく似合う十歳ばかりの少女が、鍵を手に微笑んでいた。
 全てが見覚えのある光景だった。
 それも、此処何年かに亘って。
 一時の金縛りの解けた男は、訳の解らない声を上げて走り出した。
 少女は小首を傾げながらも、笑顔を崩さず、その背中を目で追った。

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「ああ、この鍵ではないのよ。私が探しているのは」老婦人は目を瞬きながら掌の上の鍵を見詰め、頭を振った。「これじゃないわ」もう一度、念を押す様にそう告げる。
「そう?」目の前の少女は気にした風もなく、寧ろ悪戯っぽい笑みさえ浮かべて、彼女の顔を見上げている。茶色い髪に青いリボンのよく似合う、十歳ばかりの可愛らしい少女だった。青い服もよく似合っている。
 じゃあこれは? と次に少女が差し出した鍵にも、老婦人は頭を振った。
「これも違う。これも、それも違うわ。私が探しているのは子供部屋の鍵なの。それが無いと大事な息子に会いに行けないのよ」
 老婦人――七十代位だろうか。彼女の息子とあれば、最早「子供」ではないだろうに、丸で幼い愛し子を捜し求める様に切なげに、それでいて夢見る様に語る。
「早く行って上げないと、あの子はお片付けが苦手だから……。大変な状態になってしまうのよ。私が片付けて上げないとね」世話の焼ける子供と言いつつも、その世話を焼く事を自らの楽しみと――あるいは存在意義と――している様な自負に満ちた笑顔。「だから、早く息子の部屋の鍵を頂戴?」
 少女の腰のベルトにはじゃらじゃらと数多くの鍵が束となって下げられている。その中から針の一本でさえも探し出しそうな、歳を経て弱った眼ながらも鋭い視線。
 少女はそれにも動じた風もなく、また一本の鍵を取り出しては渡す。
 老婦人はまたも、頭を振った。

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 開けられる事の無いドアに何の意味がある?――暗闇の中で、男は一人ごちた。
 闇に閉ざされた、狭い部屋。窓の一つもありはしない。
 あるのは開かれる事の無い、鉄の扉だけ。
 その鍵を持つ少女を、彼は知っていた。だが、知人でも、況してや友人でもない。
 知っているのは十歳ばかりの外見。ありすと呼ばれている事。そしてどの扉をも開けられる鍵を、持っているらしいという事だけだった。
 それさえあれば、此処から抜け出せる――床を見据えて、男は唸った。此処の、ある意味安定した、しかし退屈な暮らしにも飽き飽きしていた。
 彼はいつしか、件の鍵を少女から奪い取る方法を模索する様になっていた。
 
 問題の鍵はいつも少女の首から下げたチェーンに繋がれていた。《Master Key》という小さなプレートと共に。
 だが、それが解っていたとしても扉の向こうの彼女に全く手を出せない彼には仕方のない事だった。

 と、ある日、普段は素通りして行く筈の、その少女その人が、彼の扉の前に立った。
 カチリ、とドアノブの辺りで音がする。
 真逆、と思いつつも彼は腰を浮かせた。
 測らずして、ドアが錆び付いた音と匂いを立てて、開いた。
「どういう吹き回しなんだ?」揶揄する様に、男は言った。「俺はもう此処でお終いじゃなかったのかい?」
「それがね、最近何処も人手不足らしいのよ」少女は肩を竦めて言った。肩の上で茶色い長い髪が踊る。「だから……少しだけ社会復帰しない?」
 そう言って悪戯っぽく笑った顔はとても十歳やそこらの子供のものには見えず、彼はその魅惑的な瞳の命ずる儘、頷いていた。

 翌日の晩、男は疲れ切って、馴染んだ暗闇へと戻って来た。あちこちが痛い。真逆あんな物にあれ程の攻撃力があろうとは……。いや、今の身の上だからそう感じるのか?
「ご苦労様」その声と同時に、再び鍵が締められる。
 もう少し開けといてくれよ――とは今の彼は思わなかった。寧ろ此処から、この安全な暗闇から出たくない。
 此処なら彼に、炒った豆をぶつけて来る輩は居ないのだから。
「最近は鬼も少なくなっちゃって」少女の声は微苦笑を含んでいた。「然も信じる人間も少なくなった所為か、弱ってるわねぇ」
「煩せぇ」元気なく、彼はぼやく。「これでも昔はちっとは名の売れた……」
「それで暴れ過ぎて封印されちゃったのよね? その鍵は此処にあるけど……取り返さないの?」扉の上部、鉄格子の窓の向こうで、少女がちらちらと鍵――と言うよりお札に見える――を振る。
 男はそれに対して煩そうに片手を振って、その場にごろりと横になった。
「お前みたいな小娘にいい様に扱われてる鬼なんざ、外に出す顔もねぇよ」
 そう嘯きつつも、次の節分迄には此処を出てやる――昨年も思った事をまたも決意するのだった。

                      ―了―

 ねーむーいー。
 鬼さえ使うありすって一体……?(^^;)

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 曇った窓からの薄ぼんやりとした日差しの帯の中、埃が舞い踊る。
 時折光を反射するその様は意外にも美しく、そして退廃的だった。
 少年は日差しと影の縞模様に彩られた廊下を進み、突き当りの部屋の前へと辿り着いた。精巧に彫られた扉のレリーフにも埃は積もり、真鍮のドアノブの光も曇っていた。床に積もった埃も、最近その扉が開けられた気配が無い事、開けようと近付いた者も無い事を物語っていた。
 今そこにあるのは、彼――五歳ばかりの小さな少年の足跡のみだった。
 そしてその手に余る程の大きさの、重厚な造りの鍵。彼は一つ、息を飲むと、その鍵を扉の錠に差し込んだ。
「もう居ないと……解っているのにな」年恰好に似合わぬ諦めの声音で、そう呟きながら、鍵を捻る。「それでも……会いたい……」
 扉の先は、光と暖かさの溢れるサンルームだった。

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「やぁ、ありす。君はいつも変わらないねぇ」
「貴方は……年老いたわね。ところでこの鍵は本当に要らないの?」何処からともなく現れて、小首を傾げたのは十歳ばかりの少女だった。栗色の髪に青いリボンがよく似合っている。青い服もまた然り。
「……」返って来たのは沈黙。
「貴方が望んでいると感じて、私は鍵を持って来たのだけれど……貴方は頑なに受け取らない。そこから出たくはないの?」
「……それは……出たいよ。もう何年になるのか……この家を出た妻を捜しに行きたい。けれど出ようとした矢先にその鍵が私の動きを止めてしまった」
「だからこその鍵じゃない? 拒む理由があるの?」
「……この鍵を使って迄、私を此処に留めようとした人を裏切る事は出来ない。彼女が出て行った後、酷く悲しんでいた……」
「行きたい所があって、鍵も手に入るのに、出られない……という事ね」少女は肩を竦めた。「でも、こう言っては何だけど、貴方に残された時間はもう余り無いわよ」
「やれやれ、厳しいなぁ、ありすは」奇妙な笑い声が漏れる。「けれど……そうなったらそれこそ私は自由だよ。あの人も死迄は食い止める事は出来ない」
 やれやれ、と少女は再び肩を竦める。
「人の魂は死して鳥になり、天に昇るという話もあるけれど……既に翼を持っているのに自ら縛られているなんてね」
「仕方ないさ。私はこれこの通り――籠の鳥だ」
 湾曲した嘴を持った鸚鵡が、籠の中で甲高い声を上げ、緑に彩られた翼を広げた。

「ご苦労様」少女は暫し考えた後、鍵を鍵束に繋いだ。
 あの分では「彼」はそれこそ死によって解き放たれる迄、あの鳥籠を出ようとはしないだろう。この鍵は、最早無用の長物だ。
「鳥頭――鳥は三歩歩くと物を忘れる――なんて失礼な言い草だわ。彼は脱走した彼女の事も、飼い主の涙も、忘れてはいないのにね。それに……」
 彼女は夜空を仰ぎ見た。そこには闇夜に白く浮かび上がる鳥の姿。
「貴女も、死して後も忘れてなんていないのにね。ま、もう少し待ってあげるのね……もう少し」
 呟く様にそう言って、少女は何処へともなく姿を消した。

                      ―了―
 


 テレビ見てたら遅くなったので短めに☆
 夜霧、サボったしー☆ 

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 パソコンを立ち上げるなり、少女はブックマークされたブログにアクセスした。
 不安と期待が半分――そんな気分は画面を見るなり不安一色に染まってしまった。
「まただ……」もう三箇月になろうかと言うのに、と不安な胸が呟く。「どうしちゃったんだろう?」
 一年前に遠くに越して行った友人。その彼女がブログを立ち上げたとメールをくれたのは引っ越しの一箇月後だった。内容的には他愛のない、毎日の日記ブログだったが、彼女の近況を知る事が出来、少女はまめにコメントを入れては、交流を続けていたのだった。
 それが三箇月前、ごくありふれた日常の描写を最後に、ぱたりと通常の更新が止まってしまったのだ。あるのは何故かパスワードが設定されたカテゴリーの記事ばかり。
 最初はどうかしたのかな、などと首を傾げつつも軽く考えていた少女だったが、以前の記事にコメントをしても反応が無いとなると、些か心配になりだした。
 何らかの理由で公表出来なくなったのではないか、と。
 荒らし? それとも……私にだけ非公開?――悪い想像だけが浮かんだ。直接のメールにさえ、反応の無かった事が更にその想像に拍車を掛ける。
 自宅に直接電話を入れてみようか彼女が出なくても、おばさんから話を聞けるかも知れない。そう思い、幾度かその番号を送信し掛けたのだが……その指はいつしか終話ボタンを押していた。
 確かめるのが怖かった。
 自分が嫌われたのではないかを。
 と、彼女は学校帰りに不思議な少女から渡された紙切れを思い出した。
 アルファベットで、友人の名前のアナグラムらしきものが綴られた紙切れ。
 彼女にそれを渡した少女は十歳程度に見えるその外見とはそぐわない大人びた微笑を残して、青いリボンと服をはためかせて姿を消した。
 見慣れてしまったパスワードを要求する画面。
 彼女の指は、そのアナグラムを入力していた。
 そして、扉は開いた。

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